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もっと言ってはいけない 知識社会と遺伝の本

橘玲著 新潮社 2019/1/20出版 2023/3/9読了

行動遺伝学は、遺伝の影響が身体的な特徴だけでなく「こころ」にも及んでいることを明らかにした。
全てが遺伝子で決まるわけではないが、精神疾患の場合は症状が重くなるほど遺伝率が高い。
神経症傾向の遺伝率は46%だが、統合失調症の場合は82%、双極性障害は83%である。
それ以外でも、自閉症の遺伝率は男児で82%、女児で87%、ADHDは80%と推計されている。
一般知能(I Q)の遺伝率は77%で極めて高い。

私(人格)=遺伝+環境(共有環境ー非共有環境)

環境の影響が大きくなれば遺伝率は下がり、環境の影響が小さくなれば遺伝率は上がる。
社会がどんどん平等になれば、生育環境(親の経済状態など)の違いは無くなっていくのだから、原理的に遺伝率は上がっていくはずである。
つまり、リベラルな社会ほど遺伝率が上がる。
リベラルな人たちこそが、環境の違いで人生が決まることのない、遺伝率100%の理想世界を目指さなければならない。

認知能力の発達についてヘックマンは誕生から5歳までの教育投資の重要性を説き、「認知的スキルは11歳ごろまでに基盤が固まる」と述べる。
中等教育や高等教育に税を投入しても投資に対してプラスの社会的リターンを期待できないため、経済学的に正当化できないのである。
また、仕事に必要な能力を認知スキル(知能)と性格スキル(やる気)に分け、青年期の教育支援の影響は性格スキルを高めることには貢献していると論じている。

認知心理学では、政治的にリベラルな人は保守的な人に比べて知能が高いことが確認されている。
言語的知能が低いと世界を脅威として感じるようになる。
何らかのトラブルに巻き込まれた際に、自分の行動をうまく相手に説明できないからである。
このことは子ども時代に叱られた体験を思い浮かべればわかるだろう。
大人は子どもを道徳的に「教育」しようとしているのではなく、その行動を理解するための説明を求めている。
なぜなら、理解できないものは不安だから。

世界を恐れない(言語的知能の高い)子どもは、異人種の友達や外国人との恋愛、一人旅まで「新奇な体験」全般に興味を抱く。
これが「ネオフィリア」である。
他方、世界に恐怖を抱いて知らない相手を遠ざけるの子どもが「ネオフォビア」になる。
高度化した知識社会ではネオフィリアの方が社会的・経済的に成功しやすく、ネオフォビアはうまく適応できない。

行動遺伝学:behavioral genetics
認知心理学:cognitive psychology

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