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ヘタに上手くなるな

【続々・続々 ベートーヴェンのささやき】

久しぶりに上京しました。

3.11の大震災後2015年に全線開通して以来、
初めて常磐自動車道をとおって、高速バスで。

東京駅八重洲口に到着したその足で
東京ステーションギャラリーで開かれている
“みちのくのいとしい仏たち”展へ。

江戸時代、大工や木地師の手によって造られた
素朴でユニークな仏像、神像といった民間仏には
立派なご本尊のような完成度や装飾はありません。

その彫りの拙さやプロポーションの愛らしさは
単にユニークなだけではなく
厳しい風土を生きるみちのくの人々の
心情や祈りを映しだしているかのよう。

いちおう怒ってみせているけど怖くない十王様
にっこりと笑みを湛えている菩薩様
ハッとするほどたおやかな衣装をまとっている立像や
赤子に乳を与え穏やかな表情を浮かべる観音様…

北東北(青森、秋田、岩手)の村々で
人々に慕われ、心のよりどころとされてきた
木像の仏像の姿を、会場で熱心に観入る皆さんが
温かな笑顔を湛えていたのも、印象的でした。

写真は公式の図録から


村の人々の苦しみ悲しみを受け入れ
慰め、励まし、癒してきた木像の民間仏の造り手は
プロの仏師や造仏僧ではありません。

絶対的な標準とされていた正しい図像をもち
豪華な彩色・装飾を施し、高値で取引された
都の仏像とは全くベクトルが違う、、

派閥や形式・様式、評価にとらわれず
カタチよりもココロを尊び
家族のような村人たちの平安を願いながら
造られたであろうそれらをみていると

どこからか

  “ヘタに上手くなるな”

と、ベートーヴェンが自らを戒めている声が
聞こえてくるようでした。

そういえば、ベートーヴェンの曲を弾いているときにも
これらの仏像を観た時と同じように
“なんと自由でやさしいのだろう”と、
胸があったかくなることがよくあるのです。

アマチュアもプロもない。
人の心を温め、包み、
なぐさめることができるか、どうか。

  “ヘタに上手くなるな”…

巧みか、高い評価を得られるかなど気にせず
のびのび、真の心とともにあれということでしょうか。

子どものように好奇心と喜びといっぱいの感情にあふれ
意図せず周りを幸せにしてしまうようなひとは
生き仏になっているのかもしれません。

 これからも“心はアマチュアのまま”で生きていこう

ほほえむ仏像を前に、あらためて決意をしたのでした。

#東京ステーションギャラリー #みちのくのいとしい仏たち #ベートーヴェン #ベートーヴェンのささやき

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