短編小説【人形】ややホラー?

閑静な住宅街の一角にその街には似合わない大きな一軒家があった。1階建てなのにただただ広い。クリーム色の壁に赤い屋根。窓は小さいのが各壁に1つか2つしかなかった。夕方になると薄らと明かりがついているのが見えるが、日が落ちる前に消えてしまう。

ご近所付き合いもなく、誰が住んでいるかもわからない。

誰も近づかなかった。

そんな建物をヒネクレ者の記者の男は気になっていた。全く得ダネを見つけることもできず会社で毎日上司にやいやい怒られる日々だった男は、なんの建物だろう?人は住んでいるのか?何をしているのだろうか?と日に日にその好奇心が募っていった。

そしてある日ついにその男はその家のチャイムを鳴らした。

ピンポーン…

インターフォンがつながった音が微かに聞こえた。

「すみません。伺いたい事があるんですが。」
「……」

反応はない。確かに通話しているようなそんな気がするのだが、聞こえていないのだろうか。男はもう一度「すみません」と言おうとしてインターフォンに顔を近づけた時声がした。

「…どうぞ、お入りください…。」

男はゾクッっとした。急に訪れた人間を部屋に入れるのか…?さすがに躊躇した。男が黙っていると、また声がした。
「いかがなさいますか?」
男はその言葉に試されてるような気がして「お邪魔します。」と言って応えた。そうは言ったものの男はドキドキしていた。でもここに記者としてはおいしいネタが落ちてるかもしれない…。ぐっと我慢し待機した。

すると扉がゆっくりガチャッと10センチほど開くと、その隙間から体が細く頬がこけた古臭い割烹着姿の年老いた女が立っていた。
そこでも男は躊躇した。これは入っていいものか。
「あの、ここは普段何をしている家なんですか?」
男は女に問いかけたが、女は扉を開けたまま黙って部屋に入って行ってしまった。男は追いかけるように扉を勢いよく開けた。

古い木とカビと埃の匂いがプンと鼻をついた。先ほどの女はいない。部屋は木造でただただ広く、小さい窓から漏れる光だけで薄暗く家具も何もなかった。
「先ほどの女性はどこに行ったのだ…。部屋には隠れるところもないのに消えてしまった…。」
男はゆっくりと恐る恐る部屋の中に入って行った。ギギギっと床が軋む。足の裏に感じる不安定な嫌な感触。ふと部屋の中央に四角く縁どられた床が見えた。男は地下室があることに気がついた。

床を開くとやはり地下に通じるはしごがあった。覗いてみると奥のほうが少し明るくなっている。男は恐る恐るはしごを降りていった。シンと静まり返った地下室は少し肌寒かった。

ただただ広いその空間で光るものがあった。



手足のない人形。体が陶器のようだが確かに光っている。


彩色の美しさに目を奪われたが、男は人形の顔を見て驚いた。その首から上は作り物ではなく確かに人間の頭、さらにその顔は男の上司の女性だったのだ。
「な、生首だ!なんてことだ!まさか殺されてしまっていたなんて!」

すると男は人影があることに気がついた。

「そこにいるのは誰だね。」

男はビクッとした。殺人鬼と対面するのは流石にヤバイと思ったのだ。しかし振り返った先に居たのは白いひげを生やし、杖をついたヨボヨボの年寄りの男だった。

歩くこともままならないだろうそんな年寄りに負ける気がしなかった男は、強気で言った。
「なんですかこの人形は!あなたが殺したのですか?」
なんならこの殺人鬼を捕まえて警察まで連れてったら記事どころか英雄になれるんじゃないか?そう思い始め男は興奮していた。

「ああ、私の作品だ。」

年寄りが目をそらした瞬間飛びかかってやろうと男は躍起になっていた。

「君には首が見えたのかい?」

何を言われたのかわからなかった。元から頭のおかしい奴の言うことなんて信用しない方が正解なのかもしれない。
「ああ!あれは俺の上司だ!いい上司ではなかったが、殺すこともないだろう!」
すると年寄りがゆっくりと話した。


「そうかあれは、君を首にする人間が見える人形なんだよ」


………マジか…。

男は納得した。

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