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(詩)メモ

メモ 


わが家が使っている宅配サービス
肉や野菜 乳製品など
たくさんの食品を毎週届けてくれる

配達員は二十歳前後の青年
重い発泡スチロールの箱を
何段も重ねて運んでくる

新入りなのだろう 作業が遅くて
いつも午後三時頃にやってくる
でも爽やかな笑顔で挨拶をし
丁寧に仕事をしていた

配達日に外出することになった週
ドアにメモを貼って家を出た

「配達ご苦労さまです
 今日は不在ですので
 玄関前に置いておいてください」

帰宅すると
返事のメモが貼ってあった

「わざわざお知らせを
 ありがとうございます
 今後ともよろしくお願いいたします」

メモ用紙とペンそれにテープまで
常時携帯しているのだろうか
まさか返信があるとは思わなかったので
ますますこの青年に好感を持った

そんな彼もだんだん仕事に慣れ
来るのは二時になり
ついには一時になった
箱から食品を取り出して
手渡す動作も板についてきた

だがいつのまにか
あの笑顔は消えてしまった
ことば遣いもどこか機械的で
投げやりにすら聞こえた
いつも疲れたような表情で
心なしか痩せたようにも見えた

もう新入りではなく
プロになったのだ

それを喜んでいいのか
ぼくは分からなかった

ある日 配達にやってきたのは
いつもと違う中年男だった
それ以来 青年の姿を見ることはない
別の地域に配属されたのか
それとも辞めてしまったのか

今でも時々
自分の息子くらいの歳の
あの青年を思い出す
一抹の後悔の念とともに

彼の名前を聞いておけばよかった
そして
まだ純粋だったころの彼が書いた
あのメモを取っておけばよかったと

(MY DEAR 328号投稿作)

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