VRCの一日がはじまるまで -冬-

いつも意識を失うように眠りにつく。そして目覚めるときは気が付くように目が覚める。これはあまり良くないらしい。気を失うように眠るのは本当に気を失っているのに近いらしく、眠りというのは三十分ほどうつらうつらしてから眠るのがいいそうだ。まあそれが本当なのかはわからないが。少し寒くなってきた季節の今布団からは出難く、とりあえず手を伸ばしてエアコンのリモコンを手に取り暖房をつけた。もぞもぞと布団の中で何度か寝返りをうつ。たまにうーと無意識に呻く。ある程度頭が覚醒してきたら枕元に置いてあるスマホを手に取り、ツイッターをチェックする。今日もツイッターは賑やかだ。誰かが誰かの作品で愛を叫んだり死にそうになったり、ニュースにつっこみをいれたり同調したりしている。ほぼ引きこもりのような生活を送っている私にとってツイッターはただのSNSではなく世界とつながる一つの手段だ。
ツイッターを昨日の夜見たところまで遡り終える頃には部屋は大分暖まってきていて、そこでようやく布団をめくり起き上がる。手を上にあげて自分を引っ張るように伸びをして、一気に脱力する。ぶはぁと息と一緒に残った疲れを吐き出して、私はやっと立ち上がる。散らかった部屋はベッドまでの動線だけ確保されていて、片付けないとなぁと思いながら部屋を出る。電気ケトルに水を入れスイッチオン。その間に洗顔を歯磨きを済ませる。限界まで水を入れたケトルはまだ沸かない。暖かい部屋に戻って今度は暖炉ヒーターの電源を入れた。朝の気温はもう10℃を下回るようになって、さすがに朝は暖房とヒーターを入れないと冷え性の私には耐えられない。暖炉ヒーターの疑似炎を見るとなんだかヒーターの能力以上に暖まる気がする。疑似炎を眺めながらボーっとしていると、カチリと音がした。水がお湯になったケトルの合図だ。私は寒い台所に行って魔法瓶になっているポットにお湯を移し替えて、棚の上に置いてある箱からティーバックを取り出した。今日は何にしようか。緑茶かそば茶か黒豆茶か。今日は黒豆茶にしてみよう。ポットとマグカップとティーバックをもって部屋に戻り、パソコンの前に座る。パソコンの電源を入れて、立ち上がるまでにマグカップにティーバックを入れお湯を注いだ。途端にお茶の良いにおいが鼻をくすぐる。パソコンが立ち上がって画面が表示されると、私は世界とつながるもう一つの手段、VRチャットを立ち上げた。
まだ人はいないらしい。大抵私が一番のりだ。今日もワールドのインスタンスを開いて、とりあえずネットサーフィンを始めた。
「おはよーございます」
しばらくして聞きなれた声がヘッドフォンから響いた。私はブラウザを最小化して、声の人物を確認した。
「おはよー」
そして二人で、作業を始める。こうして私の一日が始まるのだ。

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