未無月唯(降谷椎)

VRChatに生息するたまに考えたまに思いたまに物書く言葉を操る魔法使い。かもしれない。

未無月唯(降谷椎)

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言葉の魔法にかけられたいんだ

詩や小説を趣味や生業としている、降谷椎(ふるやしい)と申します。 普段はVRChatやTwitter(今はXだけど)に生息しながら、詩や小説を書いています。 書いたものはnoteやVRCのワールド「言の葉堂」に置かせてもらっています。 たまにVRCで活動されている方のキャッチコピーやイベント名、文章推敲のお手伝いなどをしているのですが、そこで言われたのが「言葉の魔法にかけられたい」でした。 以前から発表した詩や小説に対して「自分の言いたかったことを言語化してくれた」と言

    • #09 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

      「こんにちは! はじめまして! ナナっていいます!」 「ど、どうも……」  僕が挨拶をするとスリーちゃんは勢いに押された感じで控えめに挨拶を返してくれた。挨拶の仕方はもちろん人を選んでいる。静かな方がいいだろうと思うときは静かに挨拶をする。 「カトルさんから話聞いて会ってみたかったんだー最近中間テストだったんだって? おつかれさま!」 「あ、はい、ありがとう、ございます」  スリーちゃんの話をカトルさんから聞いてから会ってみたかったものの、スリーちゃんは高校生で中間テスト前だ

      • #08 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

        「こんばんはー」  外界に降っている雨の音が微かに聴こえる閉じた雨音の中、ポーンという入室音と共に聞こえた声は、中性的な、男女どちらとも捉えられるくらいの音程が似合う、中性的なアバターの持ち主だった。 「ナナさん」 「こんばんは~」  カトルさんは俺の尻尾をもふもふしながら酔ったふにゃふにゃした声で挨拶をした。この様子を見て、ナナさんはおや、と首を傾げる。ピンク色のショートヘアが揺れ、緑色の瞳が光った。 「リュウさんがそんな距離近いなんて珍しい」 「酔っぱらってらっしゃるので

        • #07 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

           季節も雨が多くなり梅雨前線が日本を東西に分ける頃、相も変わらず俺達はバーチャルの世界で、ずっと夜のワールドに集まってはとりとめのない話をする日々を過ごしていた。  そんな中ペンタにDMで空いている日を聞かれたので、金曜の夜から土日にかけてなら空いている、と答えると、じゃあ金曜の夜占うねん、と返信が来た。何を占われるのだろう。まあどうせ恋愛についてだろう。いや、恋愛を含むすべてについて、かもしれない。今自分が何に対して悩みを抱いているのか、何をどうすべきなのか、このバリスでの

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        言葉の魔法にかけられたいんだ

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          #06 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

           恋愛って、なんだろう。  ぼんやりと、私の頭を撫でてくれている大きな手を見ながら思った。  アインさんの男性アバターは安心する。自分より大きな人に抱擁されているようで。でもそれはきっと恋人に感じるべき感情なんだろう。だからこれは、あまり良くない行為なんじゃないか。他人の好きな人が私を好いているような罪悪感。実際きっとアインさんはモテるんじゃないだろうか。多分、スリーさんとか、アインさんのこと、好きなんだろう。  そこで何もせず、というよりどうしていいかわからず、そのままの状

          #06 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          虚構現実

          じわり とインクが紙に滲む ぼやけた輪郭の文字を書く 人の声を模した電子音 私を連れ去ろうとする ぽつり ぽつりと雨が降る インクがどんどん滲んでく 混じり合って重なり合って 境が曖昧になっていく 私の器に溜まっていく 私の器に響く音 あなたの器に溜まっていく あなたの器で響く音 変換された振動は わたしたちふたり 溶かしてく どろりと尾を引く 泥の沼 仮想の世界に沈むほど 世界は希薄になっていく ただの錯覚 ふたりの間が近づくほど 世界は偽物になっていく ただの幻想

          #05 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

           バリスのアバターが、現実に比べると表情が乏しくて良かったと思う。彼女の辛そうな顔を、見ないですんでいたから。 「最後まで私のこと見てくれなかったね」  彼女の悲痛な叫びを押し殺して淡々と言葉を紡いだような声が、今でも耳に残っている。 「アイン、今までありがとう」  VRでの最初の彼女の最後の言葉は感謝の言葉だった。 「アインのおかげでここでの生活がとても楽しかった」  彼女の手が開き、それに連動して彼女の顔が笑顔になる。見慣れた笑顔だ。でもそれはなんだか歪んでいる気がした

          #05 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          #04 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          「おつかれさまです」  外界に降っている雨の音が遮断された空間で聞こえてきた、その自分よりも少し高めの落ち着いた声が、嫌いだ。  おつかれ、とディーとカトルが返事を返す。ノルはそれに手を振って応えてこちらの輪の中へ入ってきた。 「お疲れさま、ノル」  アインの言葉を聞いてぎり、と歯を食いしばる。ちゃん付けから呼び捨てへ昇格した彼女が、心底恨めしい。アインはあたしのことも呼び捨てで呼んでくれる。だからこそ、そのポジションに上がってきてほしくなかった。 「……おつかれさまです」

          #04 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          #03 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          「えーすごい! そうなんですか~」  女って大変だな、と思う。こんな男の相手なんて。 「私そういうの詳しくなくて~」  だって中身が男だとわかっていて、かわいいアバターでボイスチェンジャーで高い声にしていると知っていてこれだ。 「ふふふ。ありがとうございます~」  だから、面白いんだけど。 「いやー女の子って大変だねー」  ありがたいことに私のボイチェン技術は高いらしい。素で女の子と思われていることもあったりして、そういうのを聞くとしてやったりと思うのだ。外見はバリスでは

          #03 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          #02 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          「最近アインのやつあの子とばっか喋ってる」 「やきもちか?」 「いや別に、そんなんじゃないし」  そう言うスリーの顔はデフォルトの表情のままだが、声色がどう聞いても口を尖らせていた。普段からジト目のせいでずっと拗ねているように見える。頭から生やした羽根はスリーが俯くたび下を向く。傍から見てスリーがアインのことを好ましく思っているのは火を見るよりあきらかだったし、アインが初心者連れてきたと言ってノルちゃんを紹介したときなど普段よりも口数少なにさっさと早めに落ちてしまった。スリー

          #02 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          #01 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

           今年はやったことのないことをやってみよう、と思い、年末のボーナスで購入したのは最近話題のVRキット。寒さの厳しくなってきた一月、私は四季などないVRの世界へと踏み入れた。 VRヘッドセットを被り勇気を出してこのVRのゲーム、〝Virtual Realm Space〟(通称VRSまたはバリス)をはじめてみたものの、早々にそれまでのゲーム機とは全く違う操作感と視界に戸惑うことになった。とりあえずチュートリアルが書かれている場所に来たのだが、専門的な用語が多く固まってしまった。

          #01 #LLVR [a Like Love within a Virtual Realm]

          #0 a Like Love within a Virtual Realm

          レンズの向こうは知らない世界だ 電子の海に浮かぶ数々の世界 寄せては返す波の音とズレながら流れる海と砂浜 土の匂いも風の気配も漏れ注ぐ木漏れ日もない木々の山 無機質な空気が流れ地平線が近い高層ビルの隙間 隣の部屋の音がしない孤立感が強調されたアパートの一室 まるで騙し絵のようなあり得ない形の建造物 仮初の現実というには現実離れした世界 視覚と聴覚だけで捉えるにはそれで十分なんだろう 触っても押し返してこない壁 湯気の出ないできたての料理 頭をぶつけるほど

          #0 a Like Love within a Virtual Realm

          一緒にいたいから

          「え?!有希別れちゃったの?!」  キン、と親友の高音が鼓膜に刺さった。幸運にも私はこの喫茶店の隅で壁を向いていたから、何人が今の声に反応して振り返ったか見えていない。 「どうしたの。良い雰囲気だったじゃない」 「……なんか」 「うん」  私は膝の上の手を握りしめる。 「私、が、特別だって、思えなくて」 「……あー」  彼は来るもの拒まず去るもの追わずのスタンスだった。だからきっと付き合ってくれた。でも、それ以上にはなれなかった。 「他の女の子と変わらず遊ぶし、通話するし、そ

          一緒にいたいから

          こんな、ゴミと絶望だらけの部屋なのに

          「ねえ、ふたりで抗ってみない?」  最近流行りのアニメのセリフだ。今の状況に、今の生活に、今の世界に、抗う。ここでは僕らふたりはまだ子供のようだった。実年齢など関係なく、この子供っぽさを捨てきれずにいる限り、僕らはフィクションの主人公になり得る存在だ。そんな気がしていた。  ヒロインは言う。ふたりで抗ってみない?  主人公は何も言わず、彼女の手を握る。  感触のないこの世界で、僕は彼女の手を握る代わりに頭を撫でた。視界に手が入るのでこちらのほうがわかりやすいと思って。 「ひと

          こんな、ゴミと絶望だらけの部屋なのに

          「好きです」

          「好きです」  そう伝えてくれた彼女の手は、コントローラー越しにわかるくらいに震えていた。  声ももちろん震えていて、マイクが不調なのではないかと思ったほどだ。  多分それは自分が今この状況をなんだか現実感なく受け止めきれてないからで、機器の不調だとかそういった理由付けをしてこの場をやり過ごしたかったのだろう。 「あー、えっと、ありがとう……」  酒を飲んだせいもあって頭が浮ついていた。俺も告白されるくらいの好意を向けられることがあったのか、という驚きと喜び。けれど純粋に嬉し

          あなたに言えない

           好きだと気付いたのは、もう随分前だ。  彼か彼女がわからない彼に出会ったのは今からおよそ半年前、夏の暑さで皆クーラーの効いた部屋に引きこもり、重くて熱いゴーグルを被って涼みながら遠方の友人達と集まっている、いつも通り変わっているこのバーチャルの世界で、フレンドのフレンドとして挨拶をしたのが始まりだった。  いやーいつも暑いですね、なんて何気ない会話から、フレンドを含め普段やるゲームの話で盛り上がってフレンドを交換した。  彼とはバーチャルの世界でしか会ったことがない。  ケ

          あなたに言えない