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2023年度大学入試共通テスト 国語、講評

少し遅くなりましたが、毎年恒例の共通テストの講評です。
今年の問題は良問であり、ぜひとも解いた上で復習して欲しいかなと。

第1問 近代以降の文章(評論文)
【文章Ⅰ】柏木博『視覚の生命力  イメージの復権』
【文章Ⅱ】呉谷充利『ル・コルビュジエと近代絵画  二〇世紀モダニズムの道程』

 表象文化論やイメージ論、あるいは身体論などで良く取り上げられるテーマであり、特に【文章Ⅱ】は多木浩二の『目の隠喩―視線の現象学』に近い論点であり、定番のテーマと言えば定番だが慣れていればの話で、今回の文章の読みやすさは人によって差が出る。
 問題自体も全体的に素直な問題が多く、文章の要所を正確に理解できていればそこまで解答には窮しないものとなっている。要点となる問題は、問1と問6。問1については漢文での出題が多かった漢字の意味に関する問題が問1(ⅱ)で二問出題されている。該当箇所の文脈さえ押さえていればそこまで難しくないが、漢字について曖昧に理解している受験生は苦戦した可能性が高い。問6については二つの文章を比較し考察する問題で、両文章の要点を捉えた上で共通点・相違点をつかめているかという問題となっており、二つの文章について理解しきれているかをはかる問題としては質が高い。他の設問はできたが問6で苦戦したという受験生は文章の表面を雑になぞって理解しているだけで内容は理解していない可能性があり、私大や二次試験に大きな禍根を残す危険がある。


第2問 近代以降の文章(小説)
梅崎春生『飢えの季節』

 戦後まもなくの日本を舞台にした小説であり、比較的珍しい出題ではあるものの、内容は読みやすく、戦後まもなくの日本の状況が、当時の一般庶民である主人公の心情を通して描かれている。
 問題自体は問1、4がやや難しいものの、全体的には素直な問題が多く、本文を丁寧に読んでいれば難しさは感じない。問1、4も細かい描写まで拾うことができているかを問うているという点でやや難しいというだけで、巨視的にも微視的にも文章を捉えることができていればそこまで苦戦しない。ただ問1は語句の意味を問う問題が定番となっていたが、今回は無かった。第1問、第2問ともに知識に関する問については変更が加えられており、今後も新規の問題が出題される可能性が高い。また、問7は広告について問う問題で、広告とその説明と文章を対照する問題であり、試行問題等で出題されていた肩透かしの文章・資料比較問題とは一線を画すものである。やや(ⅰ)の問題は細かい選択肢間の表現の差を見抜かないといけないため難しいものの、今後の出題のスタンダードになる可能性が高く慣れておきたい。日本史や世界史の領分に近い問題でもあるためグレーゾーンな問題ではあるものの、学問の領域が高校の教科・科目のようにそもそも安易に分断されていないという警句の可能性もある。

第3問 古文
源俊頼『俊頼髄脳』

 『俊頼髄脳』という高校古文の定番教材から出題された。内容自体は平易であるものの、この話は何なのかと後味が悪い終わり方である。第1・2問の出題に比べて、問題作成のために抜粋された文章となっており、肩透かしな感じがする。なお、実際の文章は続きがあり、「連歌は遊びで人前でするものではない」といった高慢さのせいで、会の雰囲気を台無しにするような今回の事件が起きたので、連歌は遊びと言えども恥ずかしいものとは思わず好んで学ぶべきであり、和歌同様に連歌も嗜むべきという歌論集らしい作品となっている。
 問題自体はオーソドックスなものが多く、比較的平易。問2では文法問題を聞きながら草子地(筆者の考えが出てくる文章表現)に関する問題となっており問題自体は平易だが古文を丁寧に読むという点から考えると重要な視点である。問4では和歌の修辞に関する問題。特にXとYの空欄を埋めるための思考はとても重要で、このような和歌の考察は共通テストのような誘導がなくてもできた方が良い。

第4問 漢文
白居易『白子文集』

 古文同様、漢文も定番の『白子文集』からの出題となっている。また書かれている内容も為政者論・政治論としては定番で文章自体の異彩さはあるもののそこまで驚くような問題ではなかった。形式に騙されず文章に向き合う姿勢が大事とも言える。
 問題自体も定番なものが多いが、問1の知識問題では少し難しい意味を問う問題となっており漢字について付け焼き刃の知識では対応しきれないようになっているが、漢文を真面目に勉強していればそこまで難しくはないので間違えた場合は要注意。問3は傍線部の文自体がやや難解で少し近いしづらい。その点で、唯一間違える可能性が高い問題ではある。句形・句法と文脈を組み合わせる問題としては良い問題だが、やや難しい。問4は比喩表現の内容を問う問題で文脈を読みとる問題として良い問題。問5は漢字の意味と文脈を対応させる問題で、こちらも慣れていないと難しい問題だが、問3ほど難しくないためこちらは落としてはいけない問題。上記に挙げた問題は正解、不正解によらずよく復習したい問題である。

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