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『OD!i』第51話~捧華の日記~「涙がほおを流れても①」

「……ですから、有意義な一日でした。四月十八日、おやすみなさい……」

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 あたし、早水 捧華は、

これから学園での生活をノートに記す事にしました。

つまり、日記です。

今日は世陽緑地まで走り、

昼食には皆さん予定通りに到着。

 普通学園でご用意していただいた昼食を、

有難く摂りました。

 その後は世陽緑地のフィールドアスレチックへと、

流れていく予定でしたが、

恵喜烏帽子氏がディスカッションを提案しました。

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……

 結論からするに、

あたし達は同級生なのだから、

あからさまな敬称を付ける事は、

もう止めにしないかという事でした。

 あたしは、

……多分人見知り……なので、

皆さんの顔色を伺い、

発言はしませんでしたが、

そこに神守森氏がご発言。


 要約すると、


神守森氏から放たれる「圧倒」、

ご本人曰く「威圧」は、

神守森氏の在り方そのものの発露であり、

ご本人にもどうする事もできない類のものである事。


 神守森氏ご自身は、

学園に来て、

森に入り、

そこからあたし達と、

共に長く歩んでいく為には、

ゆっくりでも構わないから、

自分らしく、

それぞれが対等の言葉で向かい合うのが、

より好いと思うのだ。

との事でした。

 きっとひとつ、

神守森氏の強い促しが、

通じ合ったとすれば、

あたし達は、

共有し協力し連帯し、

その上で、

自立せよ。

あたしはそう感じました。

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 ――しかし、

話合いの終着直後に祷が凄い剣幕で、

恵喜烏帽子氏に詰め寄ったのです。

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……

「御門っ!? それは皇様も含めて言っておるのかっ!? それによっては、わらわは許さぬぞっ!」

「…………、分かってるよ祷ちゃん。でも俺達は危険の少ない後衛とはいえ、命張るかもしれねぇ、対等な場所に立つかもしれないんだろ? ケースバイケースで、仕方ねぇ時はちゃんとする。……これだけで、分かってくんねぇかな?」

「御門よ? またわらわの期待を裏切るつもりか?」

 その時の恵喜烏帽子氏の表情は、

まるで何か鋭利な刃物を突き立てられたかの様で、

見てしまったあたしの心へも、

形容し難い痛みが走りました。

祷に対しても、

あたしの知ってる祷かどうか不安を覚える。

あたしは孤独に繋がれる。

 そこに、

ポツリと、

感情の起伏に乏しい、

しかし、

よく通る声音が辺りに響きます。

「小生も皆と同じが良い。それがいい。なぜならここは、普通の学び舎なのですから。派閥はうんざりです。小生は神守森さんに賛同します。もちろん無理をしてほしい訳ではありません。常世さん、有難う。小生なら、大丈夫ですよ」

 両目を閉じたままの、

皇氏のお言葉で、

場は純一無雑なものになり、

もう誰も迂闊に言葉を発せられない程、整えられました。

でも、

……でも、

あたしが眼にした皇氏のお顔が、

喜ばれているのか、

哀しまれているのか、

楽しまれているのか、


判然とせず、


何故かあたしの心は遣る瀬のない、


怒りを覚えていたのでした。



………………
…………
……

 その後のフィールドアスレチックは純粋に楽しかった♪

小山や丸太のシーソーを渡り、
力のモーメントを感じさせるもので楽しく学び、
滑車で丸太を上端まで引き上げたり、
慣性の働きを利用したものまで、
振り子に乗って丸太蹴りをしたり、
ロープを引いて丸太の引き上げをしたり、
ネットが付いた丸太でできた高いロケットに登ったり、
まるで宇宙をはらばいで遊泳する様なものまで、
高低差のある丸太橋を落ちない様にトントンと、
丸太に取り付けられたロープの吊り橋を渡って、
丸太で出来た円形に立ちはだかる壁を登って降りたら、

そろそろ佳境も見えてきて、

UFOみたいに吊るされた木株を渡り、

最後は、ターザンみたいに滑車で木株に座り、

空中から地上へ滑り降りて終了しました。

アスレチックも競い合う方、

マイペースな方で、

自由で良かった。

終えて各自ストレッチをしながら、

あたしが今日最もこちらの緑地で感動した事。

樹木って凄いなぁ! 植物って有難いなぁ!

感動を心から感謝のお辞儀で表して、

世陽緑地を後にしました。

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……

 本日のカリキュラムを無事終えて、

帰路は、

お車に送られる天休氏と神咲氏。

いつの間にか消失している、

皇氏、神守森氏と七ト聖氏。

後の皆さんは様々な交通機関で、

帰路へと着きました。

………………
…………
……

 祷と杏莉子とあたし、

シェアハウスまでの道すがら、

管理人室を横切るあたし達に、

五代様から、

いつもの様に優しく穏和なお声が掛かりました。

あたしにお父さん達からの連絡があった事を、

教えて下さったのです。


 ぼくはたんきなほうだとおもうけど、
いかりをうまくひょうげんできない。
きどあいらく、せっかくあるんだからつかいこなしたいね。

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