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『✕○!i』第10話「2+2=5」

 因果律の固定化。

そのものをどうやって行い、コンちゃんとポップちゃんへ、どれほどの労苦がかかるものなのか。

 人間でいて、かつ個を保つのが精一杯の僕には、全く判然としない事です。

 今わかっている事、

とりかからねばならない事へと、思考をシフトさせなくちゃ。

 一番不安を抱えているのは、

魂の双子でも、僕ら夫婦でもない。

末の娘、捧華です。

 小中の義務教育をうけられないなら、代わりは僕ら夫婦がやるしかない。

まずは算数と数学。

選択の理由は、僕は苦手なものを先に、美味しいものは最後にの、性質なものでして。

 しかし、不安は杞憂。

彼女は、真綿に水でした。

 小学校の算数。六年間、六年生までの、
式と計算。量と測定。図形。数量関係、他様々を、始めて一ヶ月足らずで、修了させてしまう程。

 現在は中学数学。このままだと、来年の春までの中学数学修了。数学に関しては、高校進学も夢ではないでしょう。

 このままだと、僕は、

真綿で首を絞めつけられて行く事になるでしょう……。

こちらが、着いて行くのがやっとなんです……。

それでも、人生の先輩として、教えたい事はまだ残っていました。

………………
…………
……

 僕はもちかけます、

「捧華? 算数の基本へ戻ろう。はい、1+1=? 2+1=? 2+2=? できるかい?」

「あいっ。簡単です。おとぅさん? ささぇをバカにしてはいけませんよ?」

 彼女は弁もたつ様になってきました。なにやら親心と呼ばれるものも、潤う気がいたします。

「2、3、4なのでっ、ふふん♪」

笑い声が倖子君に似てきた。

 ……だが今は心を鬼にする。

「第一問正解。第二問正解。……残念捧華? 第三問、不正解。2+2=5が正解なんだ」

 捧華は狼狽え、のちに、憤慨、

「え!? おとぅさん? なに言ってるので!? 2+2=……、っ!?」

彼女は気付く。僕がゆったりと威圧している事に。僕は声音を低くし、

「ねぇ捧華? 2+2=5、だよね?」

彼女は沈黙し、少し僕に怯えをみせる。それでも僕は構わず、

「言ってごらん。2+2=5、だと」

彼女は明らかな動揺、僕をためつすがめつし……、

「にたす……、には……、」

彼女は怯えながら式を口にし、自分を殺して、最後の数字を……、

………………
…………
……

言い終える前に……、

「……おっ、おとぅさん!? ささぇは言いたくないのでっ。だって2+2=4が、絶対に正解なのでっ! おとぅさんに嫌われても、ささぇは自分の正しさを通すのでっ」

それもまた善しっ。

 ゆっくり威圧をほどき、

僕は空気を変えていく様に努める。

「うん、それでいい。2+2=4だ。捧華が正しい。僕が間違っていた。すまん」

「っ!? ぉ……おとぅさん? なにがしたかったので?」

捧華はあっけにとられながらそう口にする。

そうだね……、

締めて緩めて緩めて締める事……かな。

「……捧華は円周率はどこまで言える?」

まだわずかにおっかなびっくりな愛娘。

「え? ……ぇと、π=3.14なので……」

「そう、僕にとって円周率とは、わかりやすい人生の縮図です。ぁ、縮図は難しいか。円周率は人生そのものと言うよ。あくまでも、僕の人生ではね?」

 頼りない父親にも傾聴してくれる優しい娘。有難う。

「人生は果てしない物語と僕は考えてる。数学で例えると、円周率の小数点以下を、ひたすら数え続ける様なものだ。それでも有限にも在る僕らは、どこかで線を引いて、割り切らなければならないんです。だから、π=3.14でとりあえず切り捨てる。……捧華にはまだわからないことだけれど、2+2=5がまかり通る場所は在る。それはディストピアだ。逆はユートピア。地獄と天国、そう考えてくれて、今は良いです。これから捧華の出て行く社会には、それらがゴロゴロと横たわっている」

「そっ、そんなっ!? ささぇは絶対正しい解をだして、生きてみせるのでっ!」

 彼女はふたたび気骨をみせる。
でも……、
それが悲しくて哀しい、

「捧華? 『絶対』なんて、容易に言っては良くないです。難しいことわざだけれど、“人間は万事塞翁が馬”なのです。2+2=5が、先々の為に役に立つ事だって、可能性は、決してゼロにはならないはずだから。……社会で生きていく為に、固定化された数字と呼ばれる概念があるだけなんです」

愛娘の反応は迅速、

「それなら数学なんて要らないので。算数の知識があれば生きていけるので」

伝えたい事は、あともう少しだけ。

「捧華? 僕は算数と数学は苦手です。でもね? きっと全ての学問は、大きな絶望を、より大きな希望にくるっとまわす為にある。ディストピア2+2=5が最上なら、こう公式を作ってごらん。2+2=5は地獄。2+2=4は現世。2+2=3は天国」

「天国が地獄になってしまったので!? こんな公式、ささぇはぜった……、……ささぇは認めないので」

絶対を飲み込んでくれて有難う。

「一般的な考え方なら、多分大抵の人は天国に行きたくて、地獄は嫌だろうね? しかし、僕はちょっと考えが違うかも知れません」

 ハテナ顔な捧華、

うん素敵に可愛い少女だ。

僕に似てくれなくて良かった。

「単純に地獄は、痛みや苦しみを味わう場所。また単純に天国とはそれらが無く。喜びで満たされた平安な場所。僕はね? 天国を信じられない。なぜなら、痛みや苦しみを乗り越えた先の、喜びを知っているからです。だから今は、異常な以上の公式を、僕は受け入れちゃうんだ。理想郷より地獄郷ってね」

「さ……ささぇは天国行きたいので。で、……でもおとぅさんが地獄の方が良いよって言うなら、迷っても、おとぅさんと居たいので」

多情多感な愛娘はそう言う。

もうこんなに有難い親孝行をしてくれたね?

「本当に、有難う捧華。もし良かったら僕と君達で地獄巡りと洒落込もう。そうしてね? 地獄が絶望しかなくて、天国には希望があるって解ったら、公式をまわせば良いだけなんです」

 複雑多岐な面持ちから、

しばしの思惟をする捧華、

そして、

ニコぱっ☆

と表情が明るく際立つ。

そうくるっとね?

ことわりを証明へと導く為に、

一度、

理に背いてみる事も、

時には有益なので、御座居ます。



2+2=3
2+2=4
2+2=5 せかいはおのれのいししだい。

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