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『✕○!i』第12話「仔猫の心臓」

 今日は、捧華の理科。

中学修了のまた得難き日となりました。

物理。
化学。
生物。
地学。

どこで修了となしたかは、

とりあえず参考書にて、

捧華に問題のあるところは見当たりません。

僕に見当たるんですけどね……。

やはり聞いておきたいなぁ……。

“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”。

「……あのね、捧華? 捧華が美しいのは、幸い倖子君の涙の雫の力が在る。お父さんは納得いくんだよ? だけれどね? その飛び抜けている賢さがどこから来たか、納得できないんです」

ニコぱっ☆な捧華。

「おとぅさん? よくぞ聞いてくれましたっ。なにを隠そう、この早水 捧華には、必殺技があるのでっす!」

 剣呑だなぁ……、

「必殺技って、必ず殺す技だよ? せめて必活技にしてくれないかな?」

捧華のジト目と、

「そんなの聞いた事ないので? 音の響きも悪いので? 話の腰折るのやめてほしいので?」

低音が響く、……な、……なんだろうこの敗北感。

 でも、

「うんじゃあ必殺技だよ捧華、教えて下さい」

捧華は胸をはりはり。

「ですので。捧華の必殺技、その名も、フルドライヴなのでっ!」

僕は森の哲学者気取って、

「ほうほう? それはどの様な技なのですか?」

捧華自身からなんだか気の迷い、

おそらくは捧華にも十分に理解できていない能力なのでしょう。

「……え、えーとね? ……た、……例えば、」

捧華は僕の部屋を、あれこれ見て、

声音をつなぐ、

「そうだっ! おとぅさん? パソコンたちあげてなので?」

……PCさんが出てくる関係性がわからない……が、

「うん、いいよ。倖子君にも見てもらいたいからちょっと待ってて?」

僕はPCさんを起こして、倖子君に声を掛けたのです。

………………
…………
……

 君と僕。
娘の必殺技を見る日がやってきました。
授業参観とどちらが緊張するものか、なんとなく取り留めもなく考えてしまいました。
捧華は、僕にPCさんのメモ帳出してと言い、
無言でPCさんの前に座り、キーボードに両手を置いていた。
ちなみに捧華がPCさんに強めの興味を持ったのは、これが初めての事でした。

しばし静寂が降り、

捧華は、

ポツリと言の葉を落とした。

「ささげフルドライヴ」

 最初は両手の人差し指二本で、

とつとつとタイピングを始めました。

五分後、両手の人差し指、中指、薬指で

タイピングができる様になってゆく。

十分後、両手が全て動き始める。

十五分後……二十分後……二十五分後、

……およそ三十分後、

華麗なブラインドタッチの娘がそこに居ました。

倖子君が愉しそうに嗤いながら言う。

「凄いっ捧華!? どっかの誰かさんとは出来が違うよーっ」

心当たりは……約一名どっかの誰かさんが、この中に居るな。

いや、気のせいだろううんきっとそう……。

ははは、

「ってなんだそのトンデモ能力はっ!? う、う~ん、……でも、これで捧華の学習能力の高さの説明となったな……。ところで話を戻すと、それ、詳細には、どんな能力なの?」

捧華は面白難しい顔をひとつして、

彼女なりの答えを僕らにくれた。

「う、うんとね? フルドライヴすると、感覚が突き抜けて、勉強なら必要不必要の解を取捨選択。運動なら動きをスムーズに補正がかかるので? たぶん……」

うんわかったとりあえずわからないことがわかった。

「有難う、捧華。お父さんは捧華が心配だから、今の内に伝えとく。人様の前では、あんまりフルドライヴしてはいけません」

捧華は「どうして?」の首を傾げる。

「捧華の、PCさんで言うスペックは、世間にはまだ時期尚早な能力に思えるからだよ? 捧華は来年から高校に行く事になると思う。学校はまた社会の縮図だ。よそ様にはどんなお方々がいらっしゃって、どの様なお考えをしなさるのか。それをある程度身に染みて学ぶまで、フルドライヴは封印して欲しい。どうか……頼む」

 捧華は少ししゅんとして……、

「はい、……なので」

「今心也君はね? 珍しく、捧華の為に良い事言ったんだよ? 捧華? 私からも、お願い」

 倖子君は優しくフォローを入れてくれて、

場をおさめてくれました。

「珍しく」に、

矜持を折られそうになるが、

お仕舞い。

 そして、また仕合いの仕合わせ。

「捧華? 理科の修了おめでとう。以前の算数と数学では、1+1=2の不思議。問題のミクロな不思議を一緒に学びましたね? 今日はマクロな不思議について学ぼう。……少し、遠くを視るんです。全ての問題はマクロミクロをまわして、関係各所に問題を丸投げすれば、とりあえず一旦考える時間くらいはつくれる」

娘元気オーライッ、

「はいっ! おとぅさん教えてなのでっ」

僕……こ、沽券復活?

「うん。その為にまず、自然科学と呼ばれる分野の、『シュレーディンガーの猫』を使います」

娘はワクワク感☆ みんな大好きシュレーディンガーの猫。

「な、なんかカッコイイ猫さんなので!?」

「まぁ、シュレーディンガーの猫は、自分で調べて下さいね。それでも、僕の伝えたい事は大体伝わると思うよ? シュレーディンガーの猫を、少しいじっただけですからね」

 僕は始める為の呼吸をととのえてから、

「それでは、まず、猫さんにお越し頂く。それと、猫さんに入って頂く箱を用意する。で、猫さんに大人しく入って頂く。さぁ、捧華問題です。箱を開けた時、猫さんはどうなっているでしょうか? フルドライヴ使用可」
 
捧華から、極めてがっかり感、

「……いえいえ……そんなの、普通に箱に入っているに決まっているので!?」

だろうね。

「たしかに、その事象の可能性はわりと高そうですね」

 でもどうかな? と間を置いて、

「猫さんは、ニャと一回鳴くかも知れない。あるいはニャニャと、二度も鳴いてくれるかも知れない。突飛に思えるかも知れないけれど、猫又さんで、変化の術をつかい、犬さんになるやも知れない。あるいは、未来からきた猫さんで、それこそ量子化されていて、量子転送で箱から消えているかも知れない。僕の言ってる事わかるかい?」

 ま……愛娘がげんなりしています……。

「おとぅさん? もっと現実みるので? そんな事、有り得るはずがないので?」

可愛い魚が掛かる。

「捧華? 前にも言ったよね? 絶対は有るけど無い。言の葉の檻に入るものは、全て存在すると心を保ってほしい。存在の固定化は常に始まり終わっている。運命は変えられるし変えられない。全ては、全知全能の神様の奇跡にお任せするんだ。どうか、とね? どんな好手を打てても次の手を常に考え続けてほしい」

 ああーなんか捧華煙出てる様な感じー。

「ごめん。おとぅさん、よくわかりません。結局何が言いたいので?」

結びから、次の起への準備、

「完璧完全は、全知全能の神様だけが、お使いになる事を許されたお言葉だって事さ。大体シュレーディンガーの前提条件50%と50%のキレイな確率自体人為的に起こし得ることができるかすら僕は超絶懐疑的です」

調え起こしてゆく、

「あと最後にひとつ。僕はアマチュア作家です。故に色々な言葉を勝手に創造したりしてしまう。けれどね? いくら言葉にできるからって、存在を認めたくない言の葉の檻も在る。それは例えば『全知全能の人間』です。もしもそのようなお方様に出会う事があれば、僕は神仏を憎悪する存在に堕ちてしまうかもしれません」

 捧華がぐたっとしてる。もうすぐ終わるからね?

「有限が在り、無限が在る。僕も檻の中だけれど、無限が有限を包括している。そう考えるのが自然だと思います。捧華? 常に保険、退却路を用意してください。マクロとミクロを、上手くまわせる様になれば、自然がそれを行って下さる。以上です。ご静聴、有難う御座居ました」

かんらからからと君の拍手。

「おー心也君、割りと面白かったよ。時に君にとっての、今とりかかってる難問とかあるの?」

 ……う……うん。

そうですね。

……君に、捧げます。

「……今の、非常な難問はね?」



 カレーあじのうんこかうんこあじのカレー。
それがりょうほうきみからのおもてなしだとしたら?
ぼくはりょうほうよろこんでたいらげられるかおおいにぎもんだよ。

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