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『✕○!i』第6話「わらべ唄」

 我が君が帰って来てくれて、僕は、コンちゃんからもらった、人の、涙で咲くお花の鉢植えを、倖子君に見せる事ができました。

萌芽はまだありません。

君は言うね?

「よしわかった。心也君引き続き涙をよろしく」

ですよねー。

 え、えぇっと、……ですね……。
そ、そう……何も隠す事はないのですが……。
彼女、倖子君は、涙を流す事が嫌い、あるいは大の苦手。
特に人前では、『鋼鉄の乙女』なのです。

 君が居ない間は別の意味で、僕の心身が、ちょうどそんな状態にあったけれどね。……く、暗い話はよそう……、そうだ。
……でも……、僕も今回は、容易にイエスマンになれない。

「……う、ん、わかってたけどさ。僕、できるなら、君とふたりで、協力して咲かせたいんですよね?」

なにか挙動がオカシイ、君。

「ぅわかってるわよ、で、でも泣けないのっ。私だって一緒に咲かせたねって、あなたと達成したいのよ」

 僕は彼女の警戒網を慎重にかいくぐり、
両手を、彼女の両肩に置く事に成功した。
僕えくせれんとっ。

「倖子君、挑戦あるのみですっ!」

 実は僕も、彼女が泣いているところを見た事がない為、大切な種子の萌芽と、君が泣いた顔と言うある種特殊な萌えを、追求したくなりました、とさ。

 まず手近で、効果の高い映画鑑賞から、推して参ります。お家はある意味自由業、時間は捻出できます。

米、仏、独と、三本大体6時間鑑賞いたしました。

………………
…………
……

「うん無理無理。自然にね。働いちゃうの私の心理が、『泣くな』ってね。私はね? 涙を流すとしたら、それはもう流し終えてるの。わかるかな?」

 ひとしきり沈思黙考、

「……つまりキーワードは、やはり『自然』、ですか」

わずか姿勢も語調も前のめりになる君。

「そうそう、心也君憶えてるじゃん」

ひっそりと尋ねてみます……、

「最近は、いつ頃隠した涙を流しましたか姫君?」

危ない橋を丁寧口調でそろそろり、

「あぁ私バカだんな様に理解されてないんだわっ。なんて哀しい質問なの?これこそ言わぬが花よっ。減点減点大減点っ」

得た教訓、“君子危うきに近寄らず”……。

戦を挑んでわずか七時間足らずで一時停戦。

 ……いや、
自然は倖子君と居る為のキーワードです。
ですから、停戦でもなく終戦。
自然とは、ひとつ。人為が加わっていない、
あるがままの状態や現象を指すのですから。


 僕をほぐす様に、やんわりとした君の声音、

「ま、アメリカンだけでなく、フランス映画とドイツ映画をチョイスしてくれた労苦には、素直に感謝するよ。お疲れ。ふぅぁーぁ……」

自然にキラリ、君はあくび姫。

「お涙頂戴っ!」

僕は、くしゃみでもしようか。

 僕が起こしたアクションに、なんだか君の顔色は難しい。

「い……いや、そういった涙は、お花さんは求めてないと私でもわかるんだけど……」

僕は、取り繕いと本音、半々に、

「でも、涙は涙さ。僕嫌なんだ。このお花を倖子君無しで咲かすのが」

 君はなんとなくにやにや。チェシャ猫さんを連想させる。

「……いやーお姉さん感心しちゃったよ。あの無関心な心也君がねー。私が貴方の心情に、少しでも影響をもたらしてるなら、私は、……ちょっとだけ、誇らしいかな♪」

 彼女は、ぇへっとお鼻の下に左人差し指をやり、すりすりさせる。

「僕が、人間っぽくなれてるとしたら、一番は倖子君、君のお陰だよ。有難う」

君は、微笑んで一言。

「心也君は私が居て上げないとダメだからなー♪」

彼女のあくびが伝わせた、頬までの涙の線がとても印象的でした。


 なみだはかざりじゃありません。
のんびりゆこうよ。
じぶんのみちをさ。

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