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『開幕前夜』第4話「雲のように風のように」

 あたくしのありたいカタチ。

それは雲のように。

 あたくしのはこびのカタチ。

それは風のように。

 けれどもあたくし、清夜花は、

その在り様を保つ事が、

わずか困難な有り体。

彼女と出会ったあの日から。

………………
…………
……

 あたくしは鳥達の舞う空となり。

心をいつも空(から)とし。

小鳥達に慕われ。

我が師であり友、

法華を迎える事さえできるまでになった。

 あの日彼女が現れるまでは、

鳥達はあたくしという空(くう)を切り、

心地よくさえずり翔んでくれていた。

青と白と透き通る場所そのものになれていたはずだった。

過去形。

 現在あたくしの空には、

火が燻ぶっていた。

嫉妬。

彼女を照らす光の鳳(おおとり)。

あたくしは押し込めてしまおうとしても、

嫉妬の醜い揺らぎは消せない。

端的に。

「何故あの程度の娘が?」

四神に護られている?

 法華は鳴き。

教えては下さる。

法華はあたくしの友とも呼べるが、

鳳はすべからくそのカタチ。

理を持ってこの星に遍在していると。

法華自身にもそのお力は循環しているのだと。

我が師法華にはあいすみません。

……それでもなお、

あたくしには器の違いを見せつけられた想いが……、

あたくしの空を知る事もできぬ、

鳥達の音色に劣る者が、

軽々とあたくしを、

翔びこえていった事としか考えられず。

嫉妬の火がちりちり……ちりちり……、

想ってしまう……、

憎悪。

「……許さない」

 この想いは、

時間で風化させるか。

もう一度彼女と相対するかしかない。

同じ学園に入る以上、

結局は相対しか選択肢はない。

そんな憤懣を抱える、

あたくしを、

さらなる闖入者が掻き乱す。

入寮しちょうど一週間目。

あたくしは、

男子に告白されたのだ。

公衆の面前で。

………………
…………
……

「それがし、そなたの佇まいに惚れましたっ! それがしを、どうか姫君の下に!」

 闖入者はそう言って、

……なるほど霊力の宿る。

かなり短めの木剣を、

あたくしへと差し出していた。

 ですが男の子?

先ずは名を名乗るのが、

照る道理でしょう?

「失礼仕まつり候。それがしの名は、✕✕✕✕で御座居ますっ!」

………………
…………
……

 あたくしの空への闖入者達。

どちらも憶えやすい特徴的な音色。

あたくしに恥を掻かせてくれて、

心を吐きそうな程揺らしてくれて。

どうも有難う。

 こんな気持ち、

久方振りに味わってるわ。

そうよね?

空は曇るし雨も降る日だってある。

あたくしもまだ人間なのだ。

あたくしの願いはただひとつ。

 あの、

雲のように風のように。

穏やかな空を取り戻す事。

 それが、

あたくし、

星野 清夜花の、

入学式前夜の、

誓いでした。



 つみをにくみなさい、
ざいにんをあいしなさい。
わかるけどなっとくはできない。

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