【創作大賞】人生設計
ひとつの命が産み落とされた。両親は立派な大人になるよう、子供に愛情を注いだ。
やがて歩き出し、言葉を発するようになった。幼稚園に通うようになると、子供の学習能力は一気に上がり始めた。教育熱心な両親は、「ウチの子供は天才なのではないか?」とさらなる期待をかけ、一流の学校に通わせようと寝る間も惜しみ懸命に働いた。
子供は小学校受験に見事合格し、このまま大学まで一流の道を歩けるようになった。
大学卒業まであと一年。いよいよ社会へ飛び出すための就職活動が始まった。
周りを見回してみると、友人の大半は夢や目標を持っていたが、この子供にはどうにも将来が描けない。自身を振り返ってみても、できることはたくさんあるものの、好きなもの、興味のあるものがあるか、というと何も浮かばない。
悩んだ挙句、両親にたずねることにした。
「もうすぐ大学も卒業です。父さんと母さんはどうやって今の仕事を選んだの?」
両親ともにサラリーマンで一般企業勤め。父親は「給与待遇がよかったから」と言い、母親は「育児制度がしっかりしていたから」と答えた。
子供は呆気にとられ、「たったそれだけ?他にはないの?」とさらに問いかけた。
すると両親は困った表情を浮かべ顔を見合わせた。しばらくして、父親がポツリと言った。
「学校を卒業したら、誰もが働いてお金を稼ぎ、家族を養う。そして次の世代へ繋げていくのがこの社会だ」
「それはわかっています。けれど、その動機となるものはなんですか?」
またもや答えに窮する両親。これ以上たずねても納得する答えは導けないだろう。
しかたなく自分の部屋へ戻り、社会に出るための動機を考えることにした。
学校生活は楽しかった。友人もたくさんいたし、勉強も将来の役に立つと思っていたから苦にもならなかった。とはいうものの、卒業と同時に社会人の仲間入りをすることに違和感を感じてもいた。中には立派な目標や夢を叶える職業に就く者もいる。けれどそれはほんの一握り。それ以外の者にとっては、希望する会社に入社できる保障はなく、時には妥協が強いられる。それでも働かなくてはならないのは、生きていくためにお金が必要だからだ。果たしてそれは本当に自由意志と言えるのだろうか?実は決められたレールの上を走らされているだけなのではないのか?
すると、窓を叩くコツコツという音が聞こえてきた。開けてみると、15センチぐらいの小人が窓枠からするすると滑り降りてきた。
「気づいてしまったようですね」
「え?何に?」
「この社会の仕組みについてですよ」
初めて見る小人の存在と、心を見透かされたことに驚いて声が出なかった。
「まれにいるんですよね、そうやって気づいちゃう人。でも大丈夫。皆さんご自分の意志で生き方を決めてらっしゃいますよ」
小人はそう言うと頭に飛び移り、人差し指をこめかみにツンと当てた。
まばゆい光に包まれたと同時に、扉を叩く音が聞こえた。
「おい、さっきの話だけどな」と父親が部屋に入ってきて言った。
「お前さえよければ、父さんの会社にきてみるか?そのぉ、働きながらやりたいことを見つけるのも遅くない、と思ってな」
「うん、そうしてみるよ」
「ふー、今回も危なかったですねぇ、神様」小人は吹き出る汗をぬぐいながら言った。
「最近は気づく者がやたらと増えて困る」
「気づくまでの思考をまっさらにしてありますから、今後あの人間に同じ問題は起きませんよ」
「すまんな、助かったよ。それにしても人間のなんと扱いづらいことか。あれが欲しい、これが欲しいというくせに、いざそのものを与えるとしり込みして手を出しやしない。人生を苦もなく全うするために予備で設けた設計レールが今や頼みの綱とはな」
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