002:席替え

指と指が触れ合ったその日。

僕は泣いてしまった。

相手は笑っていた。

なんで手が当たっただけで......なんて、周りの人は思うかもしれない。

僕にとっては、それはとても重要なことだった。

相手のあの子もきっとそうだったんだろうって今なら思える。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの子は、体に触れられることがとても嫌な子だった。

落し物をしちゃったりすると、周りがびっくりするくらい動揺して、しばらくうずくまってしまうことなんてよくあることで.....。

小柄な子だったから、人の手を借りる機会は多いはずなのに、近寄ってほしくないからって、一人で頑張ったり......。

そんな頑張り屋な君のことが僕は好きで、でも近寄れなくて、遠くから見ているしかなかった。

体に触られるのが嫌ってどういうことなのかなって自分でも考えたりすることもあるけど、やっぱり僕だけじゃ解決策は見つからなかった。

だけど、いつまでもこのままでいても仕方がないから、話しかけてみることにした。

おはようからはじめて、さようならで終わる。

君との会話は、僕だけじゃ体験することのできない様々なことを教えてくれた。

イラストを書くのが好きなこと、ピアノを昔から弾いていたこと、お花を育てたり、生けたりするのが好きなこと、実はホラー映画が好きなこと、でもいつも泣いちゃうこと。

君のこぼす笑顔を初めて間近で見れたこと、悔し涙、嬉し涙、ちょっと頬を膨らませて怒った風な顔、叱り顔。

僕は改めて君を好きになれたし、いろいろなことを知れた。再発見ができた。

いろいろ、僕たちの関係が変化し始めた頃、大きなイベントがあった。

その日、ぼくたちのクラスは席替えがあった。

僕の席と君の席は、大分離れていたから、歩く時間というのがもどかしい思いでいっぱいだった。

だけど、席替えで、僕と君との物理的な距離は一気に近づいた。

僕たちは今まで以上にたくさん話すようになったけど、君に触れないのはいつも通りだった。それが僕は悔しかった。

クラスのみんなにとって、君は幽霊なんだろうか。身体に触れない、なんかあるとすぐ蹲ってしまう、幽霊みたいな障害物みたいなそんな存在。

それが僕はとても悔しかった。

こんなに笑顔がかわいいのに。

僕でさえ、君と話しているだけで、心がときめきまくっているんだ。みんなだって感じていることがあるんじゃないかと僕は思う。

だから、みんなに君のことをたくさん知ってもらいたいから、行動することにした。

君が落としたものを君よりも早く拾ってあげることだ。

これは、席替えする前だとやりにくいことだったから、席替えという制度を作ってくれた先駆者には感謝の意を伝えようと思う。

狙うならどんな時がいいだろう。

君はたまに、お昼寝をしてる時があるからそのころを見計らって手を出すというのはいいかもしれない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕が君に触れたのはその時が初めてだった。

君の指先は滑らかで、また僕は好きになった。

その時の君の笑顔は、驚きがまじっていたけれど、これまでに見た顔の中で一番きれいだと思った。

僕はまた好きになった。

ありがとうと君に言いたい。

僕はまだ君を好きになりづつけていてもいいんだっておもったから。




シンプルに100のお題
http://www.diced.jp/~injector/100haihu.htm

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?