立ち会い出産

夫は私の希望で立ち会い出産を経験することになった。

そうすることを希望した理由は、何となくでしかない。後から
・分娩を見ることで育児に対して当事者意識を持ってもらいたい
・不安なのでそばにいて欲しい
等理由をつけることはできなくないけれど、私の素直な気持ちを日記のように記すことにしているので、率直に書くことにする。
さしたる理由はない。
ただ夫に立ち会って欲しいだけ。

夫は血を見ることも誰かが痛がっているのを見ることも好きではない。まして、その血を流すのも痛がるのも妻だとしたら尚更のことだろう。
37週でバースプランを提出したとき、もっと言えば陣痛室から分娩室に移動するときですら夫は「本当に立ち会わなければいけない?」とこぼしていたほどだ。
そんな夫に、当然ついてきて立ち会うべきだ、と言い張って半ば強制させたのは私だ。

分娩が終わるその瞬間まで、私は申し訳ないともなんとも思っていなかった。
二人の子どもなのだから、主体的に産むのは私でも、二人で産みたかった。それが当然とまで思っていたくらい。

陣痛の間、夫は慣れない早起きでぐったりして眠っていて(夫の名誉のために言うが、23時に一旦自宅へ戻り、徐々に強まる痛みで弱音を送り続ける私が心配で3時まで眠れず、破水して急に子宮口が開きだしたため5時に叩き起こされ、全開しかけで10時まで待たされたのだから仕方ない)正直なところまったくの役立たずだった。
けれど、分娩室に入ってからというもの、手を握り、汗を拭き、声をかけ続け、そこに居続けてくれた。私が希望していないなら入りたくないと言っていた分娩室に。そして、最後までしてくれた。したくないと言っていた出産の立ち会いを。

痛みで意識が朦朧としている中、夫が不器用に汗を拭おうとしてくれていたことを覚えている。
何を言っていたかは忘れたが、励ましの言葉をかけ続けてくれたことも覚えている。
無理、できない、と泣き言を言う私を優しくなだめてくれたことを覚えている。
娘が生まれてすぐに「かわいいねえ!頑張ったねえ、ありがとう!」と言って嬉しそうに笑った顔を覚えている。
なかなか産声をあげなかった娘が心配で泣きそうになった私に何度も「大丈夫だから」と言い続けてくれたことを覚えている。

夫は私が子どもを産み、胎盤をだし、裂けた股を縫われ、私の安全が確認できるまでずっとそこにいてくれた。
早く娘に会いに行きたいだろうに、私の処置が終わり、私の気持ちが落ち着くまで話しかけ続けてくれていた。
そのことにどれだけ私が助けられたことか。
処置の実況中継は余計だったけど、ふたりで出産という大切なイベントを乗り越えられたことが嬉しかった。

夫は、産前あれほど渋っていた割に、立ち会い出産は良いものだと言う。
眠くて大変だったけど、立ち会ったからこそ生まれてすぐの我が子を見られたし、満足しているとのことだ。
胎盤はレバーみたい、股は本当に針みたいなので縫ってる、血の量がすごかったみたい~などと見て教えてくれる程度にはしっかり見ていたのが意外だった。
見たくないと言っていた割に、意外と「思ってたほどのものではなかった」らしい。
強引に立ち会わせた自覚があるだけに、今さら申し訳ない気持ちになってきたが、次のときは立ち会うのに子ども預け先がいるね~とのことで、今回はそこまで深く詫びるほどではなかったよう。

立ち会い出産、夫はして良かったと言ってくれた。
生まれた瞬間の我が子に会えたという喜びで、疲れや苦手は吹き飛んでいったらしい。
私も夫に立ち会ってもらって本当に良かった。あんなしんどい作業、夫抜きではとても耐えられなかっただろうと思う。夫の励ましあっての、まさに夫婦での出産だった。
次の子を授かる日が来て、また立ち会うことになったら、今度こそ夫には子宮口全開近くまでしっかり休んでもらい、ひとりで耐えられない陣痛になってきたら腰をさするか手を握ってもらい、陣痛の合間に水分補給を手伝って欲しい。そして、今回と同じように分娩中の私の汗を拭き、励ましの言葉をかけて欲しい。
そして、今回と同じように私も夫に「支えてくれてありがとう」と感謝したい。

産後、ガルガル期だったのか喧嘩は(これは未だに)多いけれど、不思議と夫のことは出産前よりも好きである。苦しいときに何をしてくれなくても、そばにいてくれたことが一番大きいと思う。それに加えて励ましの言葉や不安なときに明るく接してくれたことが、愛情を深める結果を生んだ。

もし立ち会いを迷っている方がいたら、もし可能で双方とも興味があるならぜひしてみるといいと個人的には思います。
人生で命を懸けて新しい命を誕生させるという瞬間を、見る機会があるなら(立ち会い出産のできないところ、ケースもありますので…)、病めるときも苦しみのときも愛し慈しみ支えることを誓った女性のサポートをして欲しいなと一人の妻として思います。
女性は産前産後の恨みは忘れないと言いますが、産前産後の感謝も忘れません。してもらって嬉しかったこと、ずっと覚えているはずです。

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