マーダーミステリーゲームの面白さの『成分』を考えてみる

マーダーミステリーの面白さ、楽しさは多岐にわたっている。
何を面白い、楽しいと思うのかはそれぞれの人の主観によるものであるので、マーダーミステリーの共通認識とは定義させずに、私の主観で考えを進めてみようと思う。
従って、以降は「minの主観」というフィルターを通した考えを述べていくので、ただの個人の考えを垂れ流したものとして受け止めて欲しい。
誰に対する議題提起でもなく、とりあえず自分の考えを整理するためだけに書いてみる。
念押しすると、私自身もマーダーミステリーゲームをおそらく50作品程度しかやっていない気がするので(ちゃんと数えてはいない)、素人の感想程度に考えてもらえば良い。

1.マーダーミステリーゲームの要素
 マーダーミステリーゲームの大部分(全部のゲームをプレイしているわけではないので、「全て」とは言わずに、敢えて「大部分」と表現する)は下記の要素で構成されていると考えている。
・推理性
・物語性
・ゲーム性
・ロールプレイ性
 他にも色々な要素があるとは思うが、今回はこの4つに絞って考えてみる。それぞれの要素の濃淡がそのマーダーミステリーを特徴づけるものの1つとなっていると考えているので、私個人としてはどの要素が一番重要だとか重要でないとかの優劣は付けられないと考えている。

 今回議論したい面白さの『成分』とは、それぞれの要素に対してさらにその中のどの点、どの瞬間が面白い・楽しいと感じるのかということである。例えば、推理のどんな時が面白いのかという点に対して、厳密にはマーダーミステリー、謎解き、推理小説等で得られる面白さのポイントは若干違っていると考えている。

2.マーダーミステリーゲームの推理性の面白さの『成分』
 私がマーダーミステリーゲームの推理面で面白い・楽しいと感じる瞬間は下記である。
 ・自分で謎を解いたとき
 ・皆で話し合った結果、謎が解けたとき
 ・議論中の自分の何気ない一言が事件解決に役に立ったとき
書き出してみると、(メインの事件の謎だけではなく、他の様々な謎も含む)が解けた話し合いの場に自分が同席し、できれば解決の役に立っていることが重要である気がする。例えば密談多めのゲームで、密談相手から自分の知らない情報を使って解けた事件の真相を一方的に伝えられた場合、へーそうなんだー、解けちゃったのかーとは思っても、推理面で楽しかったとは思わないだろう。ここでプレイヤーに推理が楽しかったと思わせるためには、推理の手がかりになる物事がなるべく多くのキャラクターに行き渡るするという工夫が必要だと思う。キャラクターのハンドアウトの一部に手がかりを入れ、調査をするときに同じ場所を1人が続けて調査できないルールもその工夫にあたると考えている。例え推理が苦手でも、推理に必要な情報を会話によって他の人と共有することで、推理の役に立てたという満足感は得られると思う。

 推理性の面で作り手として大変だと考えているのは推理の難易度である。推理小説を読み慣れている人は現場に残されたアイテムをいくつか見ただけで、ある程度トリックが解けてしまうかもしれない。一方、推理系の娯楽に全く触れてこなかった人は、情報が全て公開されてもトリックが分からないかもしれない。難易度が適切かどうかはそのゲームをしたプレイヤー次第なところもあるので、客観的な評価が難しい。おそらく大部分のマーダーミステリーゲームは情報が全て出そろった状態ではトリックがある程度解けるようになっていると思う。(トリックが解けることと犯人が1人に絞れることは別ではあるが。)その上で、難易度調整は主に下記で行われているように思う。
・全ての情報が出そろって議論できる時間をある程度短くする
・同時に多くの事件を起こして情報整理に時間を使わせる
・キャラクターの背景等に全ての情報を公開できない事情やミッションを課す

 もっと難しいトリックのマーダーミステリーゲームを!という声も時々目にするが、プレイヤーが推理に慣れてくれば(トリックを解く熟練度が上がれば)自然と難しいトリックの作品も増えるだろうと期待している。難しい推理(トリック)の作品を求めているプレイヤーのために、作者や公演店舗がその作品が推理入門・上級等を公表するのも1つの手だと思うが、謎解き団体がやっている「脱出成功率〇%」みたいなのも作者・公演店舗が許可すればだが、有効な手だと個人的には思う。
 
 蛇足ではあるが、推理小説を読んだときに私が感じる面白さの『成分』についても言及しよう。私が推理小説で面白い・楽しいと感じるのは、自分が想像しなかった意外なトリックが使われていた時、推理のヒントは提示されているけれど発想の逆転が必要だった時、知らなかった知識を得た時である。そして、推理小説に関しては解説編まで私はトリックが解けていないことがほとんどだけれども、それに対して不満をあまり感じることはない。むしろ、小説家に対して凄いなと尊敬の念を感じる。
 マーダーミステリーの推理性でも上記をそのまま満たせば良いかというと違うと思う。トリックを説くのためのヒントが少なすぎて、あるいはトリックが難しすぎて、知らないリアル知識が必要とされた等で全くトリックに歯が立たなかった場合は不満が残るだろう。同じ「解けなかった」でも、「あとちょっとで解けた」と「全く分からなかった」では満足度に天と地ほどの差があると思う。実際、私自身が犯人役をプレイしたことのあるシナリオで、情報が上手く出なかったのかトリックが難しすぎたのかは分からないが、私が嘘をついたり情報を隠したりしなくとも捕まらなかったことがある(犯人投票の際、全く票が入らなかった)。その時の私の気持ちは犯人として逃げきれて嬉しかったとは全く感じず、なんかごめんなさいという申し訳なさだった。

3.マーダーミステリーゲームの物語性の面白さの『成分』
 私が物語として面白いと感じるのは以下のときである。
・想像しなかった意外な展開に直面して驚いたとき
・感動したとき
 ・ワクワクしたとき
 ・葛藤したとき
 少なくとも心が動かされたり、気持ちが揺さぶられたりしたときに面白さを感じる。この点から作り手として逆に考えると、プレイヤーに面白さを感じさせるためには以下の働きかけが有効だと思われる。
 ・意外な展開の物語
 ・感動するストーリー
 ・興味深い謎があるストーリー
 ・葛藤し、プレイヤーに選択させる物語
 より効果的に気持ちを揺さぶるためには、その刺激に対して慣れていないことが望ましいため、独自性の高い舞台設定や物語展開が求められると思う。物語の展開に納得できるものがあればより没入感は増すとは思うが、その逆方向に振り切る形で飛びぬけた作品をプレイしたこともあるので、よりリアルであれば良いとも言い切れない。全ては作り手の個性をいかに表現できるかだと思う。

4.マーダーミステリーゲームのゲーム性の面白さの『成分』
 ゲーム性とは何か?というのを調べてみても、ゲーム性のきちんとした定義はないらしい。マーダーミステリーのようなプレイヤー間のコミュニケーションを前提としたゲームについて、「あるルールに基づいたプレイヤー間の駆け引き(勝負)がある」、「勝者には利益(または敗者には損失)が与えられる」等が要因としては良く挙げられている。具体化すると以下のようになるだろうか。
 ・各自に定められた目的があり、それによる駆け引きがある
 ・ルールに基づいたプレイヤー間の勝負があり、勝負の結果に基づいたリターンがある
 マーダーミステリーで勝敗が一番わかりやすい形となっているのが、「犯人を捕まえる(投票される)」or「犯人が逃げる(投票されない)」であり、その他のミッションによる点数化だと思う。ただ、これもマーダーミステリーは各キャラクターでミッション達成の難易度を完全に同じにすることは難しいので、点数化すればゲーム性が保たれるというわけではないと思う。
 リターンの方法に関して次に挙げられるのが、マルチエンディングである。プレイヤー全員のミッション等の達成状況に応じて物語のエンディングが変わるシステムである。私個人の好みとしては、このマルチエンディングシステムがあれば良いと思う。エンディングも物語全体としてのエンディングや各キャラクターのエピローグなど方法は様々あるだろう。
時折、ゲーム性と物語性で対立軸として語られている場合を目にするが、それはプレイヤーのミッション達成状況をエンディングに反映できていないことによる不満であり、本来は対立する要素ではないように私は感じている。もちろん、美しい物語の終わり方を追求した結果、あまりプレイヤーの勝敗が重要視されていない作品もある。しかし、マーダーミステリーは物語の一種である以上、作り手が作品に込めたメッセージがそこにはあると考えているので、プレイヤーにそれぞれリターンがないとマーダーミステリーとして成立していないとまでは私は言い切れない。(純粋にプレイヤー間の議論による互いの駆け引きだけを楽しむなら、人狼ゲームでも良いと思っている。)

5.マーダーミステリーゲームのロールプレイ性の面白さの『成分』
 ロールプレイと一言で言っても、「キャラクターのハンドアウトを読んでその心情に沿った言動をする」というものから、「衣装をキャラクターのものに揃え、言葉遣いも変える」まで色々な方向性のものがある。ただ、ここで共通するのは「普段の自分でない人間になれる」、「普段の自分ではできないことをやれる」ということである。
 普段の自分ではできないこととは何だろうか。いくつか例を挙げてみよう。
 ・普段の自分ではしない言動をする(服装、本来の自分と違う言葉遣い・距離感)
・人に嘘をつく、騙す
 ・人の秘密を暴き、他の人に伝える
 上記をリアルな社会で行うと、自分自身が恥ずかしい思いをしたり、周囲から変な目で見られたり、場合によっては周囲からの信用を失ったりして、かなりダメージを受けることになるだろう。ロールプレイをすることによって、本来の自分を傷つけるリスクを負わずに安心して遊べるというのがマーダーミステリーの魅力につながっていると思う。

 ロールプレイ性と推理性が時折相反するものとして考えられていることがある。しかし、これも本来相反するものではなく、ゲームに制限時間が設けられていることに起因すると考えている。推理性のところでも述べたが、推理の難易度調整の方法の1つとして時間制限が設けられている場合がある(密談、全体会議が〇分間等)。たいてい、全ての可能性を議論しつくすにはちょっと足りないかもしれないという絶妙な時間配分だ。議論の時間は限られているので、そこに謎を解く以外のロールプレイを入れてしまうと、推理するための時間が足りなくなる恐れがある。だからといって、ロールプレイを完全に無視して、自分に都合の悪い情報もすぐに躊躇なく提供してしまうと、「自分がそのキャラクターになった意味はあったのか?」等のジレンマにも陥る。
 この問題は時間制限というゲームシステムに起因するものなので、別のゲームシステムでカバーできるとも考えている。一般的な調査フェイズでは、あらかじめどこの場所が調べることができるのかということが、情報カード等で公開されていることが多い。これを情報が得られる場所が非公開の状態でロールプレイすることによって、例えば質屋の鑑定人や泥棒といった属性を持つキャラクターが「これは珍しい清朝の壺ですね…」と言いつつ壺を手に取った時にその壺が偽物だとわかったり、割れているのを見つけたりといった風にすれば、ロールプレイ性と推理性はお互いを邪魔しあわないと思う。
 
 物語性の項目と重複するが、私がロールプレイ(キャラの心情に沿った言動)をして、心動かされるのは以下のときである。全ては書ききれないので、一部の例を書き出す。
 ・自分が持っている秘密を葛藤の末、誰かにあるいは全員に打ち明けたとき
 ・誰かの秘密をこっそり打ち明けられたとき
 ・自分が期待していなかった好意を向けられたとき
 ・自分の秘密を隠すために誰かに嘘をついたとき
 それぞれを考えてみると「驚き」、「葛藤(または抑圧)からの解放」、「秘密の共有」などがあったときに心動かされ、面白いと感じている。マーダーミステリーは基本的には事件が発生し、それを解決するために(あるいは逃げるために)動くので、秘密の重さ(他人に軽々しく話せるかどうか)は比較的重く、それゆえに話すべきかどうかという葛藤が生まれる。
 葛藤が多いとプレイ感も重めになるかというと、物語次第であると思う。キャラクター全員に同じような重さの秘密を課し、物語の世界観を明るめにすれば、秘密の重さは相対的に軽く感じるようになり、いわゆる「ワチャワチャ感」が出てくるのではと考えている。

5.マーダーミステリーゲームの各要素のバランス、納得感
 これまで個別に要素の面白さの『成分』について挙げていったが、個人的に一番大事なのは各要素のバランスと納得感だと思う。作り手がプレイヤーにどういう遊び方をして欲しいのか、どの場面を一番の面白いシーンとして考えているのかによって、それぞれの要素の比率はかなり変わる。また、ゲームシステムもどんな遊びをして欲しいのかというところを反映させることができれば、納得感は高まるだろう。作り手には既存のシステムを一般的なものだからという理由で導入するのではなく、それが自分の物語、ゲーム感に合うものかどうかを検討しながら作っていってほしいと思う。

 私がマーダーミステリーゲームのシステム面を作る上で注意している点が1つある。それはゲーム前にプレイヤーに説明すべき注意事項を増やし過ぎないことだ。(私も色々な注意事項を説明するが、ゲームを成立させる上で最終的に絶対守って欲しい事柄を説明の最後に3つ以内に絞って念押ししている。)
 ゲーム中のプレイヤーは推理をしたり、ロールプレイをしたり、駆け引きをしたりとかなり考えることが多い状態になる。そこに、プレイヤー個人で注意すべき事項を増やし過ぎると割と間違える可能性が高まる。
 たとえば、SNEのマーダーミステリーゲームに慣れたプレイヤーは、
 ・他人のハンドアウトを読まない
 ・情報カードの調査にはトークンを使う
 ・情報カードは1回の調査で同じところから取らない
 ・他人の所持している情報カードを勝手に触らない
 ・犯人以外は嘘をつけるor嘘をつけない
 あたりは暗黙の了解として理解しており、簡単な確認だけでも大丈夫だと思う。しかし、私が初めてマーダーミステリーゲームをした時には上記の注意事項ですら、「間違えないようにしないと!」と緊張感をもって覚えようとしていたものだ。プレイ中にゲームのルールを思い出す等のリアルに戻ってしまう瞬間はゲームへの没入感を削いでしまうことがあるので、なるべく避けたい。
 様々なゲームシステムを加えていくと、色々な方向性のゲームができて、作り手としては作品の可能性が広がっていくので便利だが、プレイヤーにとっては負担になったり、没入感を削いだり、プレイミスにつながる可能性がある。新しいシステムを導入する際は、「ゲーム前に説明したからできるよね」ではなく、ハンドアウトや情報カード等も「フールプルーフ(プレイヤーが勘違いや読み違いをしても、ゲームを壊すほどのトラブルにならない)」的なものにする必要があると考えている。

 最後に。
 2023年現在でも、新しいプレイ感や新しいシステムのマーダーミステリーゲームと出会って驚くことがたびたびある。私個人の意見としては、この新鮮さを失わないよう、マーダーミステリーゲームの可能性がどんどんと広がれば良いと思う。対して、初めてマーダーミステリーゲームに触れる人には、初心者におすすめの作品リスト等が色々なところから提供されれば馴染みやすく楽しみやすいのではとも考えている。

以上、私が考えるマーダーミステリーゲームの面白さの『成分』について。
あまり文章整理もせずに、思いつくまま書いたので、気が向いたら修正・追記をするかもしれない。


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