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妄想レビュー返答

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こちらは、企画「妄想レビューから記事」の返答をまとめたマガジンになります。 企画概要はこちら。 https://note.com/mimuco/n/n94c8c354c9c4
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#夜

月の缶詰 スピンオフ2

思いもよらぬ下弦 「あの、すみません。」 「ん?」 近くで声が聞こえたような気がしたのに、周囲にはいつもと変わらぬ光景が広がるだけだ。 「気のせい・・・か?」 月は美晴に拾ってもらった夜のことを思い出した。 「美晴もあんときはきょろきょろしとったなあ。」 あまりに光源の少ない駅だから美晴は声の出どころが咄嗟には分からなかったらしく、だいぶキョロキョロしとったなあと懐かしさと笑いが込み上げてきた。 美晴からすれば、人間はまさか缶詰の中の石が喋るとは思ってもみないし、そ

月の缶詰 スピンオフ3

後悔の新月気がつくと空だった。 新月の日が来たのだ。 この朔の夜が明けるとき、三日月になった者が次代の月だ。 「結局、美晴に挨拶もせんかったなあ。泣かせてしまうな。」 そろそろだと分かっていたのにさよならを言えなかったのは、泣き顔を見たくなかったから。 最後の最後までいつも通りがいいという自身の我儘を通して、美晴が何度か別れを言おうとしたのに気がついても、まだ大丈夫と言わんばかりにその雰囲気をわざと崩した。 共に過ごしたこの短い間にも、美晴が寂しがりであることや自分に信頼

月の缶詰 スピンオフ4

お暇の朔空に帰ってきてから何度目かの新月。 この朔の夜は月とっては唯一の休暇。 僕は時間があると美晴の顔が思い浮かぶけん、よく美晴の観察をしとるんよ。 美晴はよく僕を眺めとるけど、僕の方も美晴を眺めとるとはたぶん美晴は思ってもないやろうなあ。 せっかく観察したし、忘れたらもったいないけん、この暇な夜に日記にしてまとめとこうかな。 三日月の朝 美晴は朝が弱い。 目覚ましのアラームは5分おきに5回鳴らす。 どうせ起きんのやったら、最後のやつだけにして気持ちよく寝たらいいのに。

月の缶詰 スピンオフ5

美しく晴れた夜 「そろそろかなあ。」 だいぶ細くなった月を見上げて呟く。 月とひと月を過ごしてから5年が経った。 あまりにあっという間の出来事だったことと5年間も普通の生活を送ったことで、あのひと月が夢だったのか現実だったのかは曖昧になりつつある。 この5年で変化したことは大してないけれど、あの頃よりは大人になったし、仕事もほんの少しできるようになったと思う。 今の生活に不満はないけれど、ふとした瞬間、ドレッサーの上に目をやってしまうこと自分を自覚している。 またねと言えな