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はじまりじゃない朔空には闇だけが浮かんでいる。 裏には広々と田んぼが広がるだけの駅の周辺は何もなく、改札機と券売機、点滅する信号機、そして申し訳程度についた街灯だけが光源である。 田舎の朔の夜は音を吸収して、本当に静かで真っ暗だ。 ちなみにここがどのくらい田舎かというと、22時には閉まってしまうあまりコンビニエンスじゃない最寄りのコンビニまで自動車がないと辿り着けず、それでもコンビニができたと住民が浮かれるくらい。 日本には自宅の前に住民の名前がついたバス停ができる土地もある
日常の上弦「ちょっと太った?」 「美晴は本当に失礼がすぎる。僕は太ったんやないの、大きくなったんよ。月は日が経つに連れて満月に近づくの知らんの?空見てみ?」 月は知らぬ間に私の名前を呼び捨てにするようになっていたし、私は私で彼の形がこんなに大きくなるまで気が付かないほど、彼は私の生活に馴染んでいた。 「もうすぐ上弦やけんね。」 「上弦?」 「ざっくり言うと半月のことやね。この前までが三日月、今が上弦、次が満月、その次が下弦、もっかい三日月が終わったらまた新月。その頃には美
別れの予感の三日月「もうすぐ新月や。」 空を見上げて月が言った。 「だいぶ細くなったね。」 「スリムでさらにかっこよくなったやろ?」 「ノーコメント。」 「美晴はほんとに失礼やなあ。」 いつものように軽口を叩き合って笑っていたら、少し黙った月が急に真剣な声になってぽそりと言った。 「無事に月に選ばれて役目を終えたらな、好きなところに行けるらしいんよ。」 そしたら、美晴のところに帰って来てもいいやろうか。 彼は小さな声で私に聞いた。 「ちゃんと立派に月やってきたら、
憧れと現実の上弦と満月の狭間 まだ月の声が少年と大人の間だった頃のこと。 「なあなあ。人は月を見る行事があるんやろ?」 半月をちょっと通り過ぎた月が興味津々に聞いてきた。 「お月見のこと?」 「チュウシュウのメイゲツってやつ。」 「あ、今の意味わからず言ったでしょ。カタカナに聞こえた。」 「気のせいやない?」 「真ん中の中に秋で中秋。有名な月で、名月ね。」 「・・・僕らからしたらいつも名月やもん。そんなん知らん。」 楽しそうだった声がいじけた。 それでもすぐに気を取