見出し画像

赤い実の願いは雪ウサギ

お正月の間、短く切って一輪挿しに飾っていた南天の実を
ママが私に「捨てちゃって!」という。
もうお正月が終わったんだから、と。
まだつやつやしてきれいなのに…
でもママのいうことには逆らってはいけない。絶対に。
私は「はい」と返事をして花瓶の水を洗面台でこぼし、赤い実のたくさんついた小さな枝をゴミ箱に捨てた。
赤い実がぽろぽろと二粒床に落ちたので私は拾って手のひらに乗せた。
そこからまたゴミ箱に入れようとすると赤い実が私に話しかけた。
もちろん声がするわけではない。
でも私は時々そんなふうに色々なものに話しかけられてしまう。
赤い実たちが言った。
「ねえ、捨てないで私たちの願いを叶えて。
私たち、ウサギの目になりたいの。雪ウサギの目に」
ああなるほど。私はうなずいた。
二粒のこの赤い実を、雪で作ったウサギの目にしたらどんなに素敵だろう。
でも。
「でもね、赤い実さん。ここでは全く雪なんか降らないの。
あなたたちも知ってるでしょう?
うちの庭に生えていたんだから」
私は手のひらに乗せた赤い実にささやく。
赤い実はゆずらない。
「嫌。ゴミ箱は嫌。ウサギがいいの、ウサギの目!」
私は考えた。
この赤い実をウサギの目にする方法。雪は無理。
私は手をそっと握ると実を落とさないように自分の部屋に行った。
手芸の道具の入った籠のフタを開く。
そこから作業途中の羊毛を取り出した。
羊毛フェルトの小さなぬいぐるみを作る予定だった。
本当は「おもちくん」を作ろうと思っていたけどウサギにしよう。
「ちょっと待ってね」
私は籠の横にそっと実をおくと、急いで羊毛をちくちくしてウサギの形に整えた。
ウサギらしくなったところで、
「接着剤をつけさせてね」
と断ってから赤い実を目の位置にはりつけけた。
「どう?雪ウサギじゃなくてごめんなさいだけど」
私が籠から丸い手鏡を出してウサギを写すと
「これでいい。ありがとう」
という赤い実の満足そうな声がした。
私はホッとして窓辺に飾ってある他の羊毛フェルトの動物…ゾウやアシカの横に並べた。

しかし数日たつと赤い実は、しぼんでシワになり、
羊毛フェルトのウサギからぽろりと取れてしまった。
もう接着剤でつけられないし、つけても目のように見えないかもしれない。
どうしよう…
ふたたび手のひらに赤い実を乗せて私は途方にくれた。
「窓を開けて」
かすかな赤い実の声がする。
「窓?寒いけどいいの?」
私は言われた通り、片手で窓をそっと開け放った。
冬らしい澄んだ空気が部屋に流れ込む。
寒いけど清々しい。
そこにさっと白い影が飛び込んできた。
小鳥の形をしたそれは、私の手のひらの上の赤い実を、ささっとくわえるとまた窓の外に飛び出していった。
私は雲の切れ端のようなその真っ白い小鳥が
青い空に吸い込まれて行くのを見た。
クジラのような大きな白い雲も浮かんでいる、晴れわたった冬の空に。
さようなら。
ありがとう。
そんな声が聞こえたような聞こえなかったような気がしながら
私はそっと窓を閉めた。
さようなら。
今度は雪国に、ね。

(了)


なぜか意図せず三部作となりました(;´・ω・)
白い三部作☁

1,何を落としたの?

2,白い湖と白いクジラ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?