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「鳩時計のヒミツ」(春弦サビ小説締めくくり)

*👆この続きのような気がします。なんとなく。


「ミモザさん、この変な鳩時計、自分ちに持って帰ってもらえないかな?」



つる師匠の家で、さっき言われた言葉を思いだす。
私は話をはぐらかして、この海辺の自宅に帰ってきた。
小さなキッチンと寝室だけの白い家。とても小さな貝殻のような家。
海が見えて、たえず波の音と気配に包まれた潮の香りのする私だけの家。
こんな家に住むのが夢だった。
実現するなんて思っていなかった。
オーブンでは粉末状の緑茶を生地に混ぜ込んだスコーンを焼いている。うん、おいしそうな匂い。良い感じに膨らんでいる。
焼けたらこれと冷蔵庫の生クリームを持ってまたつる師匠の家に行こう。
そろそろみんながあそこに集まりだす時間だ。
今日で春のお祭りが終わるから、みんなでこの長かったお祭り期間の思い出を語り合いながら、楽しく食べたり飲んだり歌ったりギターを弾いたりするだろう。
私はお祭りが苦手だ。うるさいのが嫌いだしお酒を飲めないから、騒がしくおみこしを担ぐようなお祭りには近づけない。もしかしたらHSPなのかもしれない。
なのにこの春のお祭りは楽しかったな。note村のこの春弦地区はとても心地よかった。
いつまでもこの優しい地区で、この夢のような家に住んで過ごしたい。
でも私は何故いつからこの夢のような家に一人で住んでいるのだろう?
「コンコン」
誰かが来た。玄関の木の扉を叩く音がする。
「はーい」
急いで出てみると、そこには菊くんが紙包みを持って立っていた。
「これ。いつもの。出来たから」
特別なカモミールティだ。
「青央さんは?」
「森の中へ出かけてる。新しい良いラベンダーと良い音が見つかりそうだって」
菊くんと青央さんは畑を持っている。二人が見つけてきた特別なラベンダーやカモミールに歌や音楽を聞かせて育てている。それらで作ったカモミールティを飲むと、飲むと…飲むと…飲まないと…
「急いで飲んで」
菊くんは私のキッチンへ入るとカップに持参したティーバッグを入れ、沸いていたお湯を注ぐ。ふわっとした緑と風と空と光と海の混じったような甘い香り。それを嗅いだだけでも私の頭はしっかりする。
飲まないと、ここに居られなくなる。ここでの記憶が飛んでしまう。
「ありがとう」
「危なかったね」
菊くんは帰っていく。
このラベンダーとカモミールのお茶を飲まないとここにいられなくなってしまう。
それにもしもあの鳩時計が12回「パパヤ」と鳴くのを聞いてしまうと、元居た息苦しい場所に戻ってしまうのだ。そう、私は夜の船に乗っているうちに何故かこの村の港に辿りついたのだった。風呂敷包に包んだあの鳩時計を大切に胸に抱いていた。
私はカモミールティに温かいミルクと砂糖を追加してゆっくりと飲む。はっきりした頭にあの晩のことが思い浮かぶ。

船に乗って、街の大きな時計店に大切な鳩時計を修理に出しにいった。修理が済んだと連絡が来たので私はそれをまた船に乗って受け取りに行った。祖父母がとても大切にしていた家の守り神のような鳩時計。なのに修理が終わった鳩時計は「ぽっぽー」と鳴く代わりに「パパヤ」と鳴いた。魔術師のような風貌の店の人は、私にその音を聞かせて得意げに「よく直りましたでしょう。良い声でしょ?」と自慢げに言うと、私にその時計を押し付けた。私は何も言えずに「パパヤ鳩時計」を受け取ってしまった。
そしてその時計を抱えて辿り着いたのがこの村…私は知っている。
「パパヤ♫」を真夜中の12時に12回聞いてしまうと元の世界に戻ることを。
でも大切な時計なのでいい加減な場所には置けない。考えた末、もともとここに住むつる師匠は聞いても大丈夫だし人柄も信頼できると思い、無理やり時計を預けた(勝手に壁に掛けた)。案の定、師匠はなんともなく暮らしている。
でもたまたま居合わせた誰かが消えてしまったような気もする。でも消えてしまうと記憶からするっと消えてしまうから誰がいなくなったのかもう分からない。私が消えてもみんな分からないだろう。
「チン!」
緑茶スコーンが焼けた。
さあ、これを持って師匠の家に行こう。
そして12時になる前に帰ってこよう。この大切な白い家に。

(了)

おかしいのかシリアスなのか分からないお話になりました(;´・ω・)
鳩時計の謎は「To be continue」。
だってつる師匠がなんでもそれで良いってリレー小説のときに言ってましたから…(´∀`*)ウフフ
みなさん、ありがとうございました🌸


菊くん→ Chrysanthemum_Tokyoさん
(勝手に君呼びして登場させてすみません💦)

青央さん
(何もお付き合いもないのに登場させてすみません💦)






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