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雨の夜の光る青い花

雨の夜に咲く青い花がある。
光る小さい青い花。
たくさん咲いているのを一度だけ見たことがある。
とっても悲しいときだった。
悲しすぎて一人で傘をさして夜の公園を歩いた。
家に帰るのが嫌だから、靴が濡れてぐちゃぐちゃするけど、ずっとずっと歩いた。
いつもはいろんな人が歩いている夜の公園も
雨だと歩く人がほとんどいない。
少し不安になったけどそれでも歩いていたくて、
傘を打つ雨の音と、公園の池の蓮の葉を雨が打つ大きな音を聞きながら歩いていた。

亀が歩いていた。
遊歩道を大きな亀が歩いていた。
意外に速い。
池に浮かんでいる亀や、甲羅干しをしている亀は何度も見たことがある。
でも歩く亀を見たのは初めてだった。
亀は私に気付いていない。
驚かさないように、近づきすぎないように、
私は距離を保って、気持ちと視線を集中して出来る限り静かに亀について行った。

そんなふうに亀だけ見ていたら
気が付かないうちに遊歩道から外れて
芝生の中を歩いていた。
亀は池と反対の芝生の方へ進んでいた。
そのまま奥へ進んで行く。
行ったことのないその場所には小さな広場があった。
ほんとうは広場か分からない。
外灯が一本立っていて、その周りをまるく照らしていた。
それが広場に見えた。
そしてその照らされたところに小さな青い花が咲いて光っていた。
私は気付かずにその上に立っていた。
花の上から降りなくちゃ、と慌てたのに足が動かない。
なんだか気持ちが良いのだ。
青い花から上へ上へときらきらした細かい光が立ち昇ってきて
身体がそれを受け取るのが心地よくて動けないのだった。
悲しかったのが消えていく。
重い身体が軽くなる。
こわばっていた顔がふんわりしたのが分かった。

ふっとめまいのようなものを感じた後に、私の足は再び動くようになり、私は青い花から急いで降りた。
すると舞台から人がいなくなって照明が消えるように外灯が消えた。
私は不安になって、もとの遊歩道の方を見た。
そちらにはいつもの灯りが付いていてホッとする。
そういえば亀はどこへ行ったのだろう。
ああもしかしたらどこかで卵を産むのかもしれない。
ふいにそんなことを思った。
もっと先の暗がりへと進んで行ったのだろう、と。

濡れた靴はぐしゃぐしゃするが私はもう平気だった。
胸の中に青く小さな、星のような花のような光が灯っている。
家に帰ろう。
この光を落としてしまわないように、帰ろう。
この光を家まで運べたら、もう大丈夫だから。

しばらくたった雨の夜
家の玄関わきに青い花が一輪、光って咲いていた。

(了)


*アップして後で気がついたけれど
私はいつもパソコンもスマホも、目が楽なのでダークモードにしてるんです。
なのでこれなどはイラストがことさら良い感じに見えていますが
他の方はそうじゃないんだな~と気がつきました💦

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