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白い紫陽花の幽霊【シロクマ文芸部】

紫陽花の幽霊をみた。
いつも通る道のフェンスの向こう。
あそこには高校があって、その中庭に咲く白い紫陽花が好きだった。
もう学校は取り壊されて、その紫陽花もない。
今は大きな駐車場だ。
まだ傘を開くほどではない小雨の夜、私は急ぎ足でその道を歩いていた。
習慣でその駐車場に視線を投げる。
閉鎖されたこの時間に車はなく
ただ外灯がアスファルトを照らすだけ。
のはずなのに、その時の私の目に映ったのは
取り壊す途中の校舎と、荒れた中庭で雨に濡れる白い紫陽花。
心がしんとする。
ゆっくり瞬きと、ひと呼吸する。
ああやはり幻だった。
車のいない駐車場が雨に濡れ、
外灯に照らされて少し光っているだけだった。
ふと足元を見る。
白い紫陽花のかけらが落ちている…
そう思ったけれどそれも違った。
誰かの落としたメモが濡れていた。
文字も滲んでいる。
「まだ梅雨入りしていません」

(了)

スタエフで朗読しました

*小牧幸助さんの企画に参加します。


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