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紅葉鳥と夢見鳥🦋【シロクマ文芸部】

「紅葉鳥は鹿のこと!」
と姉の紅葉が言う。
「夢見鳥は蝶のこと、夢見草は桜のこと!」
と妹の桜が言う。
「なんか言葉遊びすぎで無理があるよねえ」
と双子の姉妹は本を閉じて笑う。
花のように笑う。
そんな二人をみている、ただの隣人で幼馴染の僕は
今の自分の立ち位置の幸運が不安になる。
なんの頼りもない儚い立ち位置だ。
でもそんな不安はおくびにも見せず微笑んで
「ほんとだね」
と頷いてみせる。
心の中で紅葉がひらひらと、蝶もひらひらと舞っている。
陽を浴びて、風を受けて、きらきらと。
どちらも予測不能な動きだから
手のひらでで受けとめるのは不可能だ。
僕はあきらめてまた本を開く。
二人もまた本の世界へ沈み
静けさが訪れた。

(了)

「紅葉鳥」は鹿の異名らしいです(『蔵玉和歌集』より)
「夢見鳥」は蝶で「夢見草」は桜、「夢見月」は三月の異名。
出典ははっきりしませんが、荘子の’胡蝶の夢’からきているようです。
今回知った、異名がまとめてあるという室町時代に編まれた『蔵玉和歌集』という本が気になります✨

*小牧幸助さんの企画に参加しています。


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