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グレーテル,探せ月夜の藤のたね

藤の種を知っている人は少ないかもしれない。
茶色くてつやつやしていて、おはじきのようにぺちゃんこで
ボタンのようにまるい。
冬の夜、藤棚の下を歩いていると
ぴちっという音とともにはじけたサヤから飛び出した種が
街灯に照らされたレンガ畳の歩道に落ちてくる。
下をむいて歩いていると、
そんなふうに落ちてきたうすい種がいくつも
道しるべのように散らばっている。
指先でつまみあげ、すべすべした感触を確認して
コートのポケットにしまう。
ときどきポケットに手を入れて
すべすべの感触を意味なく確かめる。
満月の夜には月の光をはじくほどの艶々した種。
何度持ち帰っても蒔いてみたことはない。
土に埋めたら芽がでてくるだろうか。
月夜にこっそり埋めたほうが良いのではないか。
月までとどく、とくべつな芽が出てくるのではないだろうか。



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