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もしも鳥だったら【青ブラ文学部】

もしも鳥だったら。
私は熱があって泣きやまない赤ん坊をあやしながら
鳥カゴの中のインコを見る。
もしも私が鳥だったら、こんなふうに赤ん坊を抱き続けなくて良いのだろう。
孫は可愛い。でもしんどい。自分の子の時より体力がもたない。

もしも鳥だったら。
私は外に止まった車の音に耳をそばだてる。
デイサービスから義母が帰宅したのだ。出迎えなくては。
慌てて赤ん坊をベビーベッドに降ろす。
もしも私が鳥だったら、姑の世話などしなくていいのに。
そもそも同居とか嫁とかそんなもの無いのだ。
夫の機嫌を気にしなくても良いし、
結婚しない娘を心配したり、結婚した息子やそのお嫁さんに気を遣うこともしなくていい。
何もかも、キリがない…ああ、疲れた…ああ…
私は耐えきれずにソファに横になる。

「モシモトリダッタラ、モシモトリダッタラ」
インコの夢ちゃんが鳴く。
「モシモトリダッタラ、モシモトリダッタラ」
ずっと繰り返している鳴き声がだんだん遠くなる。
駄目、寝ては駄目。
買い物に行かなくては…夕飯を作らなくては…保育園に上の孫娘をお迎えに行かなくては…

目が覚めると鳥だった。
カゴの中のインコだった。
声を出してみる。
「モシモトリダッタラ、モシモトリダッタラ」
勝手にそんな言葉が嘴から流れ出て
誰もいない部屋に響く。
羽をぱたぱたさせてみる。
カゴの中にふわりと浮かんだ。
ついでにちょっと水を飲む。おいしい。
ああ、もう何もしなくていいのだ。
鳥なのだから。
この狭いカゴの中にいればいいのだ。
「そうよ。ゆっくりしてね」
誰かがそういってカゴに布を掛ける。
私はいつ以来か分からない、安らかな静かな眠気に襲われる。
朝まで、好きなだけたっぷり眠っていいのだ。
何もしなくて良いのだ。何も。
「おやすみなさい」
「オヤスミナサイ」

(了)

*これはフィクションです。
私のことではないので心配しないでくださいね😉

*山根あきらさんの企画に参加します


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