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窓屋さんで窓を買おう

私は窓を一つ欲しくなって、商店街の「窓屋」さんに行った。

「窓を一つ欲しいんです」

「どうぞ。ゆっくり見て、好きなのがあったら言ってくださいよ」

窓屋さんの店主が言う。熊みたいな髭面のおじさんだ。

ここで売っている窓はみんなこの店主が作っている。

作る人が熊みたいな髭面でもなかなか繊細な窓だってある。

例えばそこにある、細い木枠をブルーグレーに塗ってあってアイボリーの木綿のレース生地のカフェカーテンのかかった窓なんて、外にはコローの絵のようないぶし銀の葉の木々が揺れている。

足元にある横に長い窓にはレンガ道とそこを歩く黒猫が見えた。

え?窓じゃなくて絵を売っているんじゃないの?って?

ううん、ちゃんと窓なの。ほら、風も吹いてくる。

私は目の前の、外に開いたシンプルな窓に近づいて外からの風に髪を揺らす。

でも私は今日は、四角くない窓が欲しい。

満月みたいな、まあるい窓が欲しい。

私は上の方に掛けてある幾つもの丸い窓を見上げる。

どれが良いだろうか?

みんなまんまるだけど、大きさや、枠の材質や色、はめてあるガラスの質感などが異なる。

私は自分の顔くらいの大きさで、枠は鉄製の、厚いガラスの入ったはめ殺しの窓を買うことに決めた。

その窓は二種類並べてある。

一つは「ミモザの窓」。高く伸びたミモザの木が明るく黄色い花を揺らしている。

もう一つは「鳥の窓」。見ているとさっと黒い影が横切った。カラスだろうか?

天井に付けたらきっと、空高く飛ぶ鳥が見えるだろう。

かりさお 。季語が一つ頭に浮かぶ。

そうだ、秋なんだし「鳥の窓」にしよう。

私は熊っぽい店主に「『鳥の窓』をください」と告げた。

店主は言った。

「たまにね、鳥以外も見えるからね」

「鳥以外…例えば?」

店主は教えてくれなかった。

お楽しみに。と笑った。

「ミモザの窓」は春になる前に買おう。

今夜から「鳥の窓」を見ながら眠ろう。

夜は鳥が飛ばないだろうけど。

箒に乗った魔女が通るのかもしれない。

月や流れ星が見えるのかもしれない。

UFOでもいいな…

今夜は早くベッドに入ろう。




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