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荒川洋治『読むので思う』幻戯書房

「人は読んだら、思う。少しでも何かを思いながら生きてきた。」

荒川洋治という人の仕事をわたしは全く知らず、初めて読んだのがこの本。印象としては「渋い爺さん」だ。パソコンに縁がなく、CDプレーヤーの使い方もよくわかっていないらしいのは、いかにも爺さんだが、それ以外はなかなかよかった。この本はあちこちの媒体に書いた短い文章を集めたもの。

一海知義という人の著作の感想で、その書きぶりを次のようにまとめる。「まず書き出しを示す。そのあと、次のくだりに移り、訳と原文を提示、なかみを紹介。次は訳と原文を示す前にある程度予告的な話をする。最後に全文(訳文)が登場。これで一気に眺望が得られる。この予期せぬ流れも気持ちよい。」何気ないことだけど、参考になる。

「つか見本」の話。外箱つきの本をつくるとき、中身が白紙の本を作り、それを使って外箱をつくる。この白紙の本が「つか見本」で、表紙や扉などは実際のものを使うらしい。ただ中身は真っ白なページ。それが外箱に入っている。たいてい用が済めば捨てられる。「「つか見本」の重みは格別である。作品の重みとはちがう。著者の重みとも、またちがう。どう表現していいか。なかみが白なので、わからない。」

自費出版というと自分が書いた(往々にして本人以外にはつまらない)文章を出版することを最近では意味するが、1970~80年代には違っていた。自分が気に入っている作家の著作を自費で出していた。主に詩歌集が多かった。中には小規模な出版社や個人出版もあった。それらの会社の名前があげられている。今日でもまだ生き残っている会社もある(七月堂とか書肆山田とか)。好きな詩人がいて、その詩集をどうしても出したいという願いがあったのだ。こういう話はまったく知らなかった。すぐこないだの歴史なのに、専門の人以外からは忘れられてしまいそうな話だ。

そんな感じで、書くこと、本をつくることについての話を楽しんで読んだ。


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