映画 「孤狼の血-LEVEL2」 が見たくなるレビュー!

(2021年8月20日から公開される、映画「孤狼の血-LEVEL2」の公開前レビューです。ネタバレには配慮していますが、念のためご了承の上ご覧ください)

完成披露イベント「孤狼祭」

2021年7月20日、全国の映画館でのライブビューイング完成披露イベント「孤狼祭」が行われ、「孤狼の血-LEVEL2」を公開前に見てきました!

松坂桃李さん、鈴木亮平さん、村上虹郎さん、滝藤賢一さん、斎藤工さん、吉田鋼太郎さんなど、そうそうたる豪華メンバーが終結する舞台挨拶つき。1ヶ月も早く映画を見てきました!

舞台挨拶は最初に30分という短い時間でしたが、生で見られて本当によかったです!まず、俳優さんたちのなごやかな雰囲気に驚きました。予告で見た、飢えた狼の日岡と悪のカリスマ上林とは思えません。他のキャストさんもしかり。俳優さんって、ただただすごいです。

いきなり始まった「たいぎんじゃあゲーム」。広島弁で「めんどくさいねん!」という意味の言葉からヒントを得た謎のゲーム。しかし、はじまるやいなや、斎藤工さんや吉田鋼太郎さんの大ボケが炸裂、笑いが絶えませんでした。

30分の終了時間になると、白石和彌監督の笑顔のアップに映像が切り替わり、後ろでキャストさんの楽しそうな笑い声が響く中、映画本編が始まりました。暴力と怒号、騙し合いが飛び交う映画と仲が良さそうな俳優さんたちのギャップは、映画のいいスパイスとなり楽しめました。

後で公開されたyoutubeでは、フルバージョンが見られます!白石監督、原作者の柚月裕子さんも登壇されています。

映画「孤狼の血 LEVEL2」「孤狼祭-完成披露プレミア」イベント完全版-youtube

前作「孤狼の血」は完成された作品だった

前作の「孤狼の血」は、ぜひ見てからLEVEL2を見るほうが賢明です。もちろん、見ていなくてもわかります。ところどころに昭和のヤクザ映画を匂わせるような前作の解説もあります。

しかし、日岡の心情はやはり前作を見て推し量れること。また、LEVEL2には、前作から引き続き出てくるキャラクターもいて、彼らが実に続編らしい、いい使われ方をしています。そこの「エモさ」も前作を見て感じて欲しいです。

「孤狼の血」の主人公は、役所広司さん演じる大上刑事。「孤狼」のゆえんとなる人物です。広島のヤクザ社会を、自らの権力と横暴でねじ伏せる破天荒な刑事。その相棒として配属されてきたのが、広島大学卒のまじめな新人刑事・日岡。実は、彼は警察内部から派遣されてきたスパイで、大上の違法な捜査を報告するという秘密裏の役目を担っていました。

日岡は、当初は役目のとおり、大上の横暴な捜査や振る舞いに反感を覚えていましたが、徐々に破天荒な大上の中に流れるまっすぐでゆるぎない信念に触れ、少しずつ変化していきます。しだいに、大上を快く思っていない警察内部のほうに疑惑を感じるようになり、実はヤクザより警察組織のほうが凶悪であるとすら気付きます。大上自身も、日岡の目的に気付いていながら、知らないふりをして日岡に「孤狼」のDNAを叩き込んでいきます。しかし、時はすでに遅し。壮絶な大上の最期は、あまりにも非道で無常です。醜い死に様の中に美しい生き様を感じ衝撃的です。

日岡が「孤狼」として目覚め、大上の代わりに覚悟の闘いを挑む描写は、圧巻のひとこと。2人の刑事の出会いと絆は、ヤクザでいうところの「仁義」にもなぜか似ています。実に刺激的で感情を揺さぶる奥深い人間ドラマとして、完成された作品でした。

前作を引き継ぎ越えてきた「LEVEL2」

LEVEL2では、前作で青二才だった日岡が豹変、飢えた狼のような風貌や鋭い眼光となっていて驚かされます。3年分の日岡が背負ってきたプレッシャーはいかばかりか。一気に、時間軸に引き込まれてしまいます。

そこへ、日岡が権力で必死に守ってきたヤクザ社会の均衡が崩れる事件が起こります。それは、ピアノ教師猟奇殺人事件。その犯人に、出所してきたばかりの五十子会の残党である上林が浮上します。実態を調査するために日岡が選んだのは、孤狼ゆえの実に非道な手段でした。大上ではなく、日岡が作り上げてきた張り詰めた均衡は、もろくも崩れていきます。なし崩しに救いようのない展開になったり、上林の圧倒的な凶悪に支配されていくヤクザ社会の無情などは、シェークスピアの戯曲ような破滅の美しさを感じます。迫力と役者の熱量、エンターテイメントという点で、LEVEL2は前作を遥かに越えていると思います。

映画の見所は「いじめられる」日岡と、日岡VS上林の死闘が見せる運命の出会い

白石監督は、あるインタビューで鈴木亮平さんに上林役をオファーするときに、「徹底的に日岡をいじめ抜いて欲しい」と言ったそうです。

LEVEL2は、孤狼・日岡が徹底的に叩きのめされていきます。日岡は、前作を見てもわかるように、決して天才でも完璧でもない刑事です。だからこそ、大上の凄さをリスペクトし、日岡の人間味に私たちは惹かれてしまいます。

そして、日岡の敵、上林。彼のほうが圧倒的なカリスマとして映画では描かれています。たびたび、映画レビューで紹介されている通り、上林は「この映画で唯一嘘のない人」です。彼が残忍に人を殺すのには、実は理由がありました。

上林は「外道どもが!」と劇中でよく言うのですが、それは鈴木さんのアドリブです。劇中、唯一嘘のない上林にとっては、自分以外の全てが悪。「誰の目線で見るかによって善悪の見え方というのは大きく変わる」と鈴木さんが言うように、上林には上林の正義があり、その負の部分と向き合うのは非常に苦しい作業だったそうです。

だからと言って人を殺す理由にはなりませんが、ただ、この映画を見ると不思議と上林のファンになってしまいます。部下から慕われるわけもわかります。人のものさしから見ればゆがんだ「正義」ですが、上林という人物は、人さえ殺さなければ真っ直ぐで純粋な人物です。恐ろしくもあり惹かれる。人が誰しも持ち合わせている善と悪を徹底的に表現するキャラクター、ゆえにカリスマなのです。深い役作りと徹底的な落とし込みから生まれた上林は、まさに、鈴木亮平さんにしか耐えられない難役であり、色鮮やかに生き抜いた上林は実にリアルです。

最後の死闘シーンは、ワンシーンを3日もかけて撮影され、体力に自身がある松坂さん、鈴木さんでも大変だったとおっしゃっています。カーチェイスも含めたアクションシーンは、大迫力です。最近の映画は、特にアクションや特撮映画になるほどCGが使われたりもしていますが、「LEVEL2」はすべてが本物のアクションと思われます。こんなに人が身体を張り、物がぶっ壊れる映画は最近では見たことがなく、日岡VS上林の死闘でその興奮はピークに達します。

とある映画評論家の方が言っていました。「最後はもう、BLなんですよ」と。その表現は極端ですが、わからないでもありません。上林が出会った運命の相手がまさしく日岡。二人の初めての出会いのシーンもじっくり見てほしいです。ヒリヒリした空気の中で、虚勢をはる日岡と目を爛々とさせ、日岡を試してくる上林の演技の掛け合いは圧巻です。鈴木亮平さん曰く、二人の出会いの演技はすべてをかけて臨み、一番痺れたシーンになったそうです。

上林は、死闘を重ねながら、初めて心の奥底から喜びと幸福に満ちているようにも見えます。日岡にとっても上林は、唯一どんな手を尽くしてもどうにもならなかった相手です。その時、すでに日岡にとっての本当の敵は別にありました。日岡にとっても、上林という存在は、一番危険で一番似かよっていたのかもしれません。

日岡が最後に下した決断、その前に交わされた2人の会話は非常に印象的です。2人の凶暴な死闘の裏には、とても崇高な「生きる」という刹那のきらめきを感じます。なぜこんなにこの映画にはまるのか。それは、凶暴の中に非常に不思議な「愛に満ちる」感覚にも陥るからかもしれません。それは、白石組と俳優たちの全エネルギーが起こした、素晴らしいケミストリーです。映画を見終わったときには、心が震えてとまらないのです。

白石監督のつくるヤクザ映画なら、もっと見たいと思わせる迫力とユーモア

白石和彌監督の映画は、暴力的な描写を面白がって見せるのではなく、人間が生きる美学がつまっています。「孤狼の血」は東映ヤクザ映画のオマージュにも溢れています。やくざ映画をあまり知らない私でも、非常に愛が込められており、映像には迫力と同時に美しさがあると感じます。

また、軽さやユーモアもリズムよく存在しています。キャラクターのもつ魅力はそれぞれに個性的で、劇中には笑いもいくつかあり、ポップな緩急のつけ方、ファンタジックな要素もあるというのが白石流というところでしょうか。さまざまな感情を揺さぶりながら、2時間の映画を1時間ほどにしか感じさせないスピード感。これが「面白い」映画なのでしょうね。

ラストの日岡VS上林の死闘は、時間にしては10分程度でしたが、もっとずっと見ていたかったです。実際にはその10分の映像に、3日間朝から晩まで撮影が費やされたというのすから、役者さんだけでなく編集さん泣かせでもあります。そういう意味でも、1秒1秒が素晴らしい目が離せないシーンの連続です。

キャスティングが絶妙で脇役の誰もいない映画

村上虹郎さん演じる「チンタ」もとても印象的なキャラクターです。心優しいチンタが破滅に向かっていく姿は、相当な精神力がないと演じきれないでしょう。チンタも村上さん以外に演じられない難役です。悪魔・上林と、憑りつかれてしまったチンタの、目を背けたくなるような関係性は見所です。チンタの生き様は、この映画の無情感を全て担っています。ぜひ、チンタの生きた証を見届けて欲しいです。

滝藤賢一さん演じる嵯峨管理官も、登場こそ少ないですが実に印象的な爪痕を最後まで残します。もし、続編があるのなら(原作を読んでいないので的を得ていないかもしれませんが)、嵯峨管理官が凶悪な敵になるかもしれません。そういえば、舞台挨拶の時に、滝藤さんは日岡との再会を「初恋の人に再会したように嬉しかった」と言っていました。上林と同様、嵯峨管理官にとっても日岡は運命の人なのでしょう。

そして、LEVEL2のポップ感を担うのが、音尾琢真さん演じる吉田茂です。彼のキャラクターは私にとっては「癒し」といっても過言ではありません。前作で、睾丸に埋め込んだパールを大上にほじくり出される、という描写がありますが、それを踏まえて吉田の勇姿(?)はぜひ見届けて欲しいです。

白石監督も、音尾琢真さんと吉田茂に非常な思い入れがあり、今回、本来ならば出番のなかった吉田を、脚本家の池上純哉さんに頼みこんで登場させてもらったというエピソードがあります。その選択は大成功でした。

また、斎藤工さん、かたせ梨乃さん、吉田鋼太郎さん、宇梶剛士さん、中村梅雀さん、などすごいキャストの数々ですが、誰一人として「脇役」と呼べる人がいない、という不思議な感覚に陥ります。それぞれのキャラクターに見所があり、絶妙なバランスで存在感を発揮しています。よくぞ2時間に詰め込んだと思います。もしかすると、映画が始まると、私たちの物理的な時間は存在せず、LEVEL2というパラレルワールドの時間にシフトしてしまうのかもしれません。

白石和彌監督の最高傑作!日本アカデミー賞が楽しみでならない

前作「孤狼の血」は、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞を含め、日本アカデミー賞で最多の12部門の賞を獲得しました。その前作を超える迫力、スピード感、俳優さんたちの熱量を感じるのが、LEVEL2です。比較するのもどうかと思いますが、エンターテイメントという点では前作を遥かに超えています。間違いなく、白石監督史上、最高傑作になるでしょう。今度こそ、最優秀作品賞、最優秀監督賞を期待します。

前作では、松阪桃李さんが最優秀助演男優賞を獲得しました。「LEVEL2」での鈴木亮平さんの演技力は、それに匹敵するか超えるほどに圧倒的です。「自分だけは上林を愛してあげよう」という覚悟、まさに孤狼の精神で向き合った演技力です。松坂桃李さんいわく「こんなに役をとことん掘り下げる人は見たことがない」。白石監督も、コロナ自粛を明けて、鈴木さんが誰よりも脚本を読み込んできたことに驚いたそうです。そんな努力と徹底的な準備で作り上げられた圧倒的なカリスマ上林の表現力は、まさしく賞に値します。これまでアカデミー賞にノミネートされたことのない鈴木亮平さんに、ぜひ最高の栄誉をと期待してしまいます。

今年の映画界はコロナ禍をへて充実していますから、他映画出演の俳優さんの名演技も含め、賞レースも接戦になるのではと期待も膨らみますね。

2021年8月20日、全国劇場公開が楽しみ。


「孤狼の血 LEVEL2」は、昨年の緊急事態宣言の自粛を経て、映画を作る側も「こんな映画を作りたい」と喜びと情熱をこめた映画だそうです。「こんな映画が見たかった」と私たちの夢を叶えさせてくれる、最高に面白く刺激的なエンターテイメントです。

映画を見終わった後には、懸命に闘い生きぬいたヤクザたちの鮮やかな姿になぜかエネルギーをもらえます。また、もしかすると、私たちの社会にも実際に、未知の悪が存在しているのかもしれない、凡人に近い日岡の懸命な姿を見て、自分たちにも何かできるかもしれないというような熱い炎が体にともります。「やる気や元気が出た」「いい映画を見た」とほとんどの人が口々にいうのは、そういうわけだと思います。私も、見終えた後の興奮がものすごくて、帰りの車の運転はカーチェイスをしたくてたまりませんでした。こんな気持ちになる映画は初めて、また見たいと思わせる映画も久しぶりです。8月20日、ぜひそのすごさを体感してみてください。

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