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写真展「border」徹底ガイドvol.1 /「日本の新進作家展」とは?

写真家の菱田雄介と申します。2020年8月現在、東京都写真美術館(東京・恵比寿)で開かれている写真展「日本の新進作家vol.17 あしたのひかり」に選出され、「border」という作品を展示しています。(9月22日で会期終了です…)
このnoteの目的は展示作品を一点一点解説し、見ただけではわからない背景を共有することにあります。2ヶ月の会期に来場できない方が多数いることも考え、会期後もオンラインで鑑賞してもらえるものにしたいと考えています。

◾️この記事の目指すところは「音声ガイド」

美術館の展示というのは、基本的に①ステートメント、②目の前の作品、③受付で渡された「作品リスト」が全てである。私の作品でいえば、ステートメントで大まかな概略を知り、写真や映像に割り付けられた番号と照合しながらそれが撮影された時期や場所を確認し、「これはギリシア、これはイスラエル、これはミャンマー、これは石巻か…」と見ていって頂くのが基本となる。
しかし!美術館で展示を見るとき、鑑賞者を大いに助けてくれるものに「音声ガイド」がある。一点一点の作品の前でヘッドフォンの音声に耳を澄まし、自分の感性だけでは気づけなかった背景を知ることによって、その作品をより深く理解することができる。(Don't think, feel...という考えもあるが。)

つまりこの文章の目指すところは「音声ガイド」。できれば作品をザーッと一回見てもらった後でこのガイドを見ながら回ってもらえれば、作品をより深く理解してもらえるのではないかと考えている。

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◾️そもそも今回の展示とは?

東京都写真美術館で開かれている「日本の新進作家展」とは、文字通り日本の新進作家(結構年齢は高め)を毎年1回紹介する企画展である。今年の会期は7月22日から9月22日。例年は年末に開催されているのだが、2020年東京オリンピックに合わせて前倒しでの開催となった。もちろん、オリンピックは延期されたのであるが…。
東京都写真美術館の挨拶文には以下のように記されている。

東京都写真美術館では、写真・映像の可能性に挑戦する想像的精神を支援し、将来性のある作家を発掘するとともに、新たな創造活動を紹介する場として本展「日本の新進作家」を2002年より開催しています。
第17回目を迎える今回は「象徴としての光」と「いまここを超えていく力」をテーマに、写真・映像をメディアとする5作家6名の新進作家たちを紹介します。
(後略)
東京都写真美術館 「ごあいさつ」より

今年の作家は岩根愛、赤鹿麻耶、菱田雄介、原久路&林ナツミ、鈴木麻弓というラインナップ。2019年度の木村伊兵衛賞を受賞した岩根愛、2011年写真新世紀グランプリを受賞した赤鹿麻耶、「本日の浮遊」が大きな話題となった林ナツミ、「The Restoration Will」で欧州の複数の賞を受賞した鈴木麻弓。それぞれの作品は本当に素晴らしく、この5名のラインナップというのがまた面白い効果を生んでいる。なぜこの5人が選ばれたのか?
展示パンフレットで、キュレーターの石田哲朗さんはこう書いています。

この展覧会の主要な部分は2020年の春から初夏にかけて、新型コロナウィルス感染拡大の状況下で企画製作された。(中略)
 この展覧会のテーマは「象徴としての光」と「いまここを超えていく力」である。このテーマは次のような時代認識や問いの中から浮かれたものだ。「既存のモデルやこれまでの価値観が揺らいでいる現代、先行きが不透明な時代の中で、いつしか人々が確かな未来像を心に描くことや大きな希望を抱くことは難しくなってきている。そうした時代の中で美術表現としての写真・映像は人々に何を投げかけることができるのだろうか?作家たちはいまここにあり刻々と変貌していく世界をどのように感じ取るのか?」
           「あしたのひかり Twilight Daylight」パンフレットより
                     東京都写真美術館 石田哲朗学芸員

私がこの写真展への参加を打診されたのは昨年末のことだった。まだ「新進作家展vol.16」が開催されている頃で、新型コロナウイルスのことなどまるで考えておらず、自分の展示構想も今とは全く異なっていた。石田学芸員の言葉をもう少し引用しする。

 展覧会構想の初期段階において、企画者の個人的なビジョンは、夜の闇を通り抜けて朝日が昇るような展覧会構成を行うことであった。だがこのイメージはグループ展の性質を考えると具体的すぎて、出品作品を選ぶ足かせにもなりかねず、実際に使用するのをためらっていた。しかし闇を通り抜けるイメージは、コロナ禍の状況によって、突如として多くの人々の共通認識に変容した。人々は皆同じ闇の中にいて、「いつか夜は明けるはずだ」とい希望を求める共通感覚が芽生えたのである。(中略)
それでもやはり、コロナ禍をきっかけに世界規模で多くの人々が否応なく意識や行動様式の変容を迫られていることは事実である。刻一刻と移り変わっていく身の回りの状況、複雑に関係しあった世界に対して、「私」は今どのように考えて行動するべきか。過去と異なる日常を生きている同時代の人々と同様に、本展の作家たちと企画者もまた「いまここにあり刻々と変貌していく世界をどのように感じ取るのか」という問いかけに対して、かつてよりも鮮明に意識化するようになったのである。
本展には、いまここを超えて、未来を生きるためのヒントが秘められていると筆者は信じている。
           「あしたのひかり Twilight Daylight」パンフレットより
                     東京都写真美術館 石田哲朗学芸員

 本格的に写真を組み出した頃、途方に暮れながら自分の写真アーカイブに向き合い、何をどのように選び出せばいいのかを考えた。まるで9年前の311の時のように日々深刻さを増していく世界の中で、「コロナ前」とは明らかに異なる意識で写真を選ぶようになっていた。

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4月〜5月のステイホーム期間に組み上げた展示構成。当初は「border | korea」を中心とした展示を考えていたが、蓋を開けてみたら全くの新作展示となった。「border」という概念を念頭に論理的に、時に強引に写真を引っ張り出し、並べて削ってはまた並べた。
そして、どんな展示になったのか…?次回以降で詳しくご紹介する。

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