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たたかう

 スロージョギングをしながら思うことがある。時速6キロのスロージョギングだから、早歩きとさして変わらない。10キロ進むと1時間40分かかる計算だ。どうかすると頑張った早歩きの方が速いかも知れない。

 あれは30数年前のこと、市民マラソン10キロ成年男子の部に参加して、鈍足の部ではあったけど記録は59分、ゴールで応援するかみさんと長男にヘロヘロ状態で手を挙げて応えた時の記憶と記録が、今も歩くとき走る時の目安になっている。そうかあの時、時速10キロで走っていたのか。

 スロージョギングは足が地面から数センチしか離れない見た目摺り足状態で、恐らくこれをもう1センチ上げると1キロ早く進める。でもきっと呼吸が乱れる、そんな走りだ。ただのウォーキングだと夜の景色も楽しめる思索も楽しめるけど、スローとは言えジョギングになると、急にそんな余裕がなくなってしまう。信号機が青の点滅、信号に停められてペースを崩されないように速度を上げると、悲しいかな一気に呼吸が乱れる。10年前は信号に向かってダッシュが出来てたような気もする。

 ダッシュと言えば、20代後半の3年間、某大学の空手道部で毎朝、裸足でアスファルトを5キロ走った後で、坂道やら階段ダッシュ、夕方は夕方で練習前のアップで裸足の5キロに400mトラックを「わっしょいわっしょい」と叫びながら4週、最後の一周を全力疾走なんてやって、その後で練習開始、ようやってたわ。夏は合宿で伊豆の下田に一週間、毎朝海岸を数キロ走って、道場に戻って蹴り1000本、道着を着ているのに足元に水たまり、それから練習が始まる。何度逃げて帰ろうと思ったことか。そんな頃の記憶があるからいけない。

 いやいやこのスロージョギングも継続すれば、1年後には10キロ1時間に近づけるはずだ。まてまて、お前はどこを目指しているのだ。何と闘っているのだ。そうだ、シルベスタースタローン演じるロッキー1、毎日毎日の積み重ねで、いつか階段を走り上がって、両腕を挙げて自分の住む街を見渡す、あのシーンが到達点だわ。ただ、あの時のロッキーの年齢は確か30歳か、そんなのを目指したら倒れてしまうか。

 こんな経験と哲学を抱えこんだまま歳を重ねる。しょっちゅうサイクリングをする。ウォーキングも時々する。スロージョギングもしてみる。物凄く時々、山にも登る。ひび割れたあばら骨も痛めた傷も日にち薬が治す。痛めた筋肉も筋も同様、若い頃ほど早くは元に戻らないけど、それでも3か月、半年あれば治る。ただ、どこもかしこも可動域が狭くはなって来た。背中のかけない部分が増えて来た。黒かった髪も皆白くなった。白くなった髪も毎日抜けて来ている。手元には「老齢基礎年金、老齢厚生年金請求書の審査遅延について」の案内が届いている。老齢ねぇ。ここまで来てやっと気が付く、闘い挑んで来た相手は老いだったのかと。気が付くのが相当に遅いのは否めない。老いとの格闘の日々はこれからも続く。勝ち目のない闘いであることも分かっていても、誰にでも止められない闘いはあるのだ。

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