見出し画像

圧力鍋でポトフ

 天候不順の土曜日、かみさんの買い物で明野アクロスに行く。新館側駐車場に行くと、ほぼ満車、障がい者専用も空きはなし。一般枠に頭から突っ込んで、後部ハッチからかみさんを出す。目的は本館側の百均セリエだ。館内に入るや、外だしのバーゲンのハンガーラックにかみさんが吸い寄せられる。あっちの店からこっちの店へと、やっと別館を過ぎて本館にたどり着く。
 一緒になって何度目の春だろう。歳を重ねるにつれて私とかみさんの距離は離れて行く。若い頃は自走の車椅子だから、いつも私が右手で左のグリップを押しながら、横に並ぶようにして歩いていた。最初に距離が空いたのは、簡易電動車いすになった時だ。こいつは少しの力でリムを回すと、アシスト機能で前に進むタイプだったから、時々、押してやるだけで良かった。言ってみれば付かず離れず、まあ見かけ的には逆夫唱婦随だったわけだ。続いての物理的な乖離は今のタイプの電動車いすになってからだ。もう勝手ににコントロールレバーですいすいと進んでくれる。当初は後について行くように荷物を抱えて連れだっていたのが、今では、それぞれが思い思いのところに行ってしまうようになった。どちらも興味あるものに吸い寄せられる指向性が強いから、気が付くと居ない。探したり探されたり。まず、かみさんに携帯で連絡しても繋がった試しがない。猫に小判よろしくで、肝心な時に無用の長物なのだ。かつては汗だくになって探し回ったことも、店内放送で呼び出してみたこともあったけど、もう今となっては、そのうち出くわすだろう程度に、逆にウインドショッピングを楽しむまでになってしまった。
 そして、また今日も何かの拍子に居なくなってしまった。まず、見失ったフロアーを商品から店員さん、お客さんとウォッチングを楽しみながら回ってみる。次に目的の3階のフロアーに上がり探すも居ない。ダメ元で出るはずもない携帯を鳴らしてみる。そうだ出たことはないのだ。また、元のフロアーに戻って探す。この時の移動を、最近では半分はスポーツ感覚でやることにしている。やれやれと思っていると、車椅子の後ろにデカい袋を下げて店員と話している。予定外の買い物だ。よっとか、あらっとかを表情だけで交わす。ここで言葉に気持ちを乗せると諍いが始まるから、お互い心得たもので目で交わして争いを避ける。目的の百均セリエに連れ立つ。かみさんが商品を選んで、私がカゴに放り込む。かみさんが財布を出し、私がレジを済ます。かみさんがエレベーターに向かい、私がB1ボタンを押す。狭い空間で降りる間際に笑顔で「すいません」と他の客に頭を下げる。何も悪いことはしてないのに、私が居ることで場所を窮屈にして「すいません」なのだろうか。それを見て憮然とする私。結婚した時から変わることのない腹立たしさだ。でももう慣れてしまった。腹が減った。昼ご飯にお惣菜を買い込んで帰る。
 ドライブレコーダー風に言うと、「今日のお出かけは、少し会話が少なかったですよ。でも珍しく喧嘩はしませんでしたね。帰ってからも仲良くして下さい。お疲れ様でした。」と、こんな感じだろうか。家庭内、ドメスティックディスタンスでは老々介護であんだけくっ付いているんだから、外でのソーシャルディスタンスは、まさにコロナ流でいいんじゃなかろうか。今日の夕食は、圧力鍋でポトフを作ってみた。白ワインが入れ過ぎ。

2021年3月6日

ここで頂く幾ばくかの支援が、アマチュア雑文家になる為のモチベーションになります。