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ぽにいてえる

秋の夕暮れ帰り道、事務所から駐車場までの275歩の道のり、一日の仕事の疲れを背負って少し猫背気味にトボトボと歩き始める。正面T字路の左側25メートル向こうに、うす紫のTシャツに短パン姿で走って来る女子が目に止まる。私はそのT字路をいつものように右側に曲がって亀川小学校の校舎を視界に捉えながらてくてくと歩く。足音が後ろから軽やかに近づいて来る。後数秒で女子が私の横を掠めて離れて行くのだろう。ほら、私の右後方に近づいて来たのが足音で分かる。そのまま追い越されると思った瞬間のこと。「こんばんは」と女子、爽やかに声をかけて来た。左に女子、隣に私、私の隣は民家の垣根、他の誰でもない私に声を掛けてくれたのだと、1秒にも満たない時間で判断、「頑張るなぁ」と遅滞なく返したが、言葉は風に乗り、女子はそのまま小学校に突き当たって左に走り去ってしまう。軽やかな走りに合わせて左右に揺れるぽにいてえる、段々と小さくなって行く後ろ姿が、これまた爽やかで何かの映画のエンディングでも観ているようで、あー、もう一周して、このシーンを繰り返してくれないかなぁと、馬鹿な妄想に浸りながら、ほころぶ顔を引き締めて、女子が辿った道をふらふらとよろめき歩き黄昏れてしまった。夕焼けに染まる小学校の校舎から、「さーよーならー、さーよーならー」とNSPの曲が流れて来そうだった。
どうでもいい、しょうもない瞬間の出来事、おじさんの駆け引きのない純真な裸の心をここに忘備録として残そう。

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