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275歩のマーチ

亀川駅から徒歩2分、小学校北側、三方をアパートと民家と道路に挟まれた土地の一角を会社が駐車場として借りている。一昨年まではその駐車場の敷地にまだ私なら住めそうな古い空き家があって、敷地の中の方からは温泉が緩く漏れ出して駐車場の一部をいつも濡らしていたけれど、去年、壊れそうだった家も取り壊されて、温泉の漏れ出し口もしっかりコンクリートブロックで囲われて、足元はアスファルト舗装され、駐車台数も増えた白いフェンスに囲われた立派な月極め駐車場に様変わりした。
車通勤の時には、その駐車場に停めて、朝な夕なにスクールゾーンにもなっているその道を歩く。遅刻して行く子供たち、買い物に向かうお婆ちゃん、校庭の外で煙草を吸う先生方、溝部学園の生徒たち、たくさんの人ともすれ違う。遠くからこちらを見ている猫、飛び立つ雀、足元を走るハクセキレイ、電柱の上から見下ろすカラスたちともすれ違う。雨の日、晴れの日、風の強い日、雪の日も、この道沿いには民家の垣根があり、継ぎはぎだらけの道路には、幾種類ものマンホールにスクールゾーンの緑のペイント、道路わきには雑草が四季折々に咲いている。子供の頃だったら、地べたに這いつくばって、それら色々を見て触って、匂って、いつまでも職場に行き着くことのない道草に興じていたに違いない。そんな毎日歩くこの道、いったい何歩あるんだろうと、歩いている途中で思い立つ、でも帰る頃には数えようとしていたことすら忘れている。ずっとずっと歩き始めた途中で、数え忘れたことに気が付く。その繰り返しで1ヵ月が過ぎ、半年が過ぎたある日、やっと歩き出す前に思い出してくれた。今日こそ数えよう。私の短い脚で275歩、おー275歩か、誰にも伝わらない達成感に少しだけ浸る。だからこの275歩の間にある数え切れないほどに散りばめられた取るに足らない情報をそのままにしておくのが申し訳ない。取り合えず「いつも勝手に楽しませて頂いてます。ありがとう。」と、まずは一筆認めておこう。タイトルが昭和過ぎたけど。

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