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米津玄師という幻

米津玄師が右目を解禁した。「ジョージア」のCMソングに基づいて、テレビのインタビューに答えたのだ。
彼のビジュアルは「神秘性」が売り物だ。
そう言う意味では、右目どころか両目を隠してのライブやテレビでのインタビューもある。

米津が顔出しして初めて出した楽曲「サンタマリア」は、白黒の画像に白ゆりを首に纏った米津の姿が映し出されている。

「サンタマリア」MVより


何かしらの「宗教性」と「神秘性」を感じさせるMVは、米津が苦労したと言う彼自身が作った絵本のページと共に進行していく。

淡い光の中でギターをかき鳴らす米津は、「顔出し」と言えどそのすべてを完全には表さなかった。そんな彼のメジャーデビューを最初から見つめていたのは、当然ながら米津がボーカロイドをユーチューブでアップしていた「ハチ時代」のファンたちであろう。

所謂「ボカロ」とは、初音ミクを代表する歌声を合成するソフトウェアのことだが、自分の作った曲を代わりに歌ってくれるアバターとも言える。
パソコンとこのソフトがあれば、誰もが自分の曲をインターネット上にアップすることができるもので、その機械音が苦手だと言う人もいる。

けれど「自分で歌う」というハードルを、やすやすと飛び越えて公の場に自身で作った楽曲を発表することができるというのは、私としては非常に魅力的なものだと思う。
言わば主役は舞台の裏にいながら舞台の上に立てるという、まさに米津の両義性のようなツールである。

初音ミクという自身の分身を手に入れた米津は、その才能を開花させていったのだが、次のステップとも言える「メジャーへの道」での最初の関門、
今回の右目の解禁のごとくの「顔出しでのデビュー」である。

以前私は米津はボカロ民の代弁者ではなく、むしろ共に歩む「仲間」のような存在だと書いたが、「ボカロ出身者」としての米津の顔出しでのデビューは、そのイメージをいかに作るか、慎重を期したものだったのではなかろうか?

そして最初の曲「サンタマリア」は、白黒でその「秘匿性」を、首に纏う白ゆりが彼の顔を隠すことで、勇気を振り起して公の場に立った米津であるという印象を残した。

ボカロ出身者の芸能界での立ち位置を私は知らない。けれどそのままただ初音ミクという媒体を通してインターネット上でだけ自分の曲を発表し、そのボカロの世界だけでの「人気者」であったならどうだろう。

ここで彼の言葉を抜粋したいと思う。

VOCALOIDで成功した人ってみんな思うことだと思うんですけど、「VOCALOIDの隠れ蓑にはなりたくない」って気持ちがあるんですよ。VOCALOIDキャラクターは見てくれも可愛いし、ポップアイコンとして一流だし、何も意見しないじゃないですか? そういうのってクリエイターとしてすごく楽なんです。でも「裸の王様かもしれない……」って不安も常につきまとって。そこから抜け出したかったんです。

音楽ナタリーインタビューより

だがしかし、「裸の王様かもしれない」と言った米津に一番注目した仲間であるはずの「ハチ時代」のファンたちは、彼の顔に対して辛辣なコメントをするものも目立った。

一時そんなファンたちへの疑心暗鬼なコメントをしている米津の記事を目にしたこともある。

米津の顔で一番目立ったのは、彼の右頬にあるほくろだが、ビジュアルとしてはあまりプラスだとは言えないものだ。


場合によっては手術で取るという方法もあるが、やはり危険が伴うものだろう。米津の場合も恐らく取るのは無理だったのではないだろうか?

彼が苦肉の策として前髪を伸ばし、なるべく目立たないようにした髪型は、日常生活では非常に不便なものだと察するが、米津が顔に対してかなりなコンプレックスを持っていて、ようやく顔や本名を出した「弱い陰キャ」を印象付けるには十分なものだっただろう。

そんな彼の姿にハチ時代からのファンたちは、ある部分ではホッとし、またある部分では複雑な心を残したまま、彼を応援しようと思ったかもしれない。

話しを米津のビジュアルに戻すと、普通に考えてみて欲しいのだが、あれだけ前髪が長かったら前も見えないし、目にも良くないだろう。
彼がツイッターの中で「コンタクトをしました」というツイートも見かけたが、2012年にデビューしてから2023年の3月まで実に10年以上も貫き通した右目を隠すというスタイルは、誰もができるものではない。

米津はある意味ボカロ時代の「ハチ」を内包したまま、この10年を貫き通した。だがここに来ての右目の解禁は、ある意味ハチ時代のファンの「ボカロPハチ」のフィルターを破壊することになるのかもしれない。

そう言う意味では、前回書いた「ハチから米津玄師に変わる時」と同じような葛藤と勇気を要したに難くない。

両目を解禁したことでさまざまな憶測が生まれているようだ。
元々整形疑惑はあったようだが、ここにきて再び「米津玄師整形」というキーワードが固くない。

平坦な生活からほんの少しだけフケられたらいいなという気持ちを音楽にしました。よろしくお願いします。

ジョージアCMソングに関するインタビューより

新しい米津玄師にシフトする。ハチ時代からのファンもまた、新しい米津玄師という時代にシフトしてくれたら嬉しい限りである。

3月21日ジョージアのCMソング「LADY」が配信リリースされた。

LADY 笑わないで聞いて 
ハニー 見つめ合っていたくて
君と二人 行ったり来たりしたいだけ
BABY 子供みたいに恋がしたい
書き散らしていく僕らのストリーライン

「LADY」歌詞より

新しくもう一度やり直す「恋愛」のストーリーを、書き散らしていくという「LADY」という楽曲。
これほどの「ラブソング」は、米津史上初めてではなかろうか?

次回はこの「LADY」について書きたいと思う。













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