4/18午前 アイドルが躁鬱拗らせて閉鎖病棟に入院してみた

蛍光灯の灯りでなく、カーテンからこぼれる生まれたての日差しだけに照らされるサラサラとしたリネンが、清らかで、美しく、気持ちよくて、
この時間が続けばいいのにと思った
これは、“幸せ”だ 些細なものだろうけど確かにそうだ
そんなことを言ってるうちに蛍光灯も起き始めた
幸せとは忘却だとも思う。
忘却のない幸せを願った曲の歌詞がわたしミミヒメの「永遠」です。
各種サブスクで配信中なので是非に。

ねねこがこの世を去ったと聞いて「葬送のフリーレン」をすぐに想起した
アニメは5話ぐらいまで観ていた
原作は読んでいなかったがすぐ手に入る状況だったし
携帯を使えない時間も少なくないので取り寄せすぐに読み始めた
アニメももちろん面白かったけど、漫画として読み直しても新鮮に面白いし
自分に重ねて突き刺さるような痛みを引き抜いてもらっている
(作品に移入するあまり自分を重ねてしまうタイプの感性)
でもあと3冊しかない
わたしは昔から文章を読み理解するのが速い上
漫画は読みやすさに拍車がかかるからきっともうすぐ読破してしまう
「葬送のフリーレン」は未だ連載中なのか完結したのか知らない
フリーレン達の旅路をまだまだ追っていたい
小さいコマのおとぼけフリーレンの顔がめちゃくちゃに愛おしくて大好き
今から続きを読むか一旦寝かせて違う作品を読むか迷う

昨日の日記を書き終えて3分後にノートとペンを取り出してまた今日の気持ちを忘れたくないと手を動かすの、一種の変態だと思う。悪いことではないけれども。
友人はわたしのことを「言葉の魔女」ってなづけてくれたっけな。

8:00になって試される朝食の時間
納豆と味噌汁だけ食べられた
原則食器類は自分で所定のワゴンに返却する様式なんだけど、
いつも「その可愛いコップだけ持って行きな。」とわたしの手からスマートにおぼんを回収して片してくださるヘルパーのお姉さまが居る
お姉さまの纏う空気はいつも凛としている
親切にしていただく度に🥺の顔になりながらお礼を言う
そんなお姉さまの耳にもここ数日朝の食欲不振が著しいことが届いていたようで「どうだった?」とお伺いを立てられた
「納豆と味噌汁だけ…」とまごつくと眼鏡とマスクの下から満面の笑みを輝かせながら「えらい、えらいよ!」と褒めてくださった
もっと歳を重ねたら柔らかくも威厳のあるお姉さまのような風格を纏いたい

自室に戻り結局「葬送のフリーレン」を読み進めていると完全に空間が退廃していく様子を悟り
残りの3冊を引っ掴んで看護師さんに状況を報告した後、共用スペースにて何食わぬ顔で読書を再開した

すると何かが壁にぶつかる音と怒号が30m向こうから聞こえてきて患者さん達はあまり気に留めない様子だったけどパタパタと慌てふためく足音も聞こえた
好き好んで自分自身を制御不能にしている訳ではないと思うからきっと本人も周りも想像以上に大変だと思う
みんな朗らかに生きやすくなったらいいなと願うばかり

その後看護師さんがわたしの側に来て、病室を移動することを提案してもらった。
顕著な低血圧、著しい食欲不振、睡眠からの中途覚醒を繰り返すのは
今の環境がわたしにとっては適切でないと判断されたのだと思う
ひとつとなりの5人部屋に移った。
わたしのベッドは窓から少し遠く以前の部屋がほんのり名残惜しかった
ベッド同士の距離も近くパーテーションもあってないようなものでお互いの状況を見ようと思えば見えてしまうといった具合で不安になった
けどより逞しい自分になる為にも一度は心地いい環境を作り適応する試しをすべきだと思う!

お笑いコンビ「春とヒコーキ」の土岡さんが
パリでパスポートを紛失し、憔悴しきり、果てには泣き出す場面が申し訳ないけど面白くてクスクス笑いつつ食事を摂っているのは向かい側から丸見えだが、今数少ない“生”を実感できる瞬間なのだからわき目もふらず満喫するしかない

てかなぜか平皿によそわれたアロエヨーグルトの残飯感強いしアロエが百円玉ぐらいデカいのがありえなくてひとりでおかしくなっていた

AirPodsを着用しノイズキャンセリングもフルパワーだったが
どこからか帰ってきた同室のお姉さまに話しかけられたことになんとなく気づき
とっさに「すみませんバキ童観てました‼️」と言ってしまった
お姉さまは「バキ童…?」と完全に困惑している
知らないとそうなるのは容易に想像がつく、はず
そこでよしておけばいいのに更にテンパったわたしは
「日本で最も有名な童貞のお笑い芸人です。」
と英文を日本語に直訳したような言葉遣いになってしまった
こんな説明ではイメージを一縷も掴めない…
まあ10日間患者さんと私語を交わすことをほとんど控えていたらこうもなるわな。

しかし、よく思い出すとこのお姉さまとはお話したことが一度ある。
病棟での入浴デビュー後、心身ともにさっぱりしあり得ない数の基礎化粧品を手元に置き鏡を睨み肌に叩き込んでいた
そんな時お姉さまは話しかけてくださった
一瞬戸惑ったが、コミュニケーションを重んじる接客業で場数を踏みまくっていた時の直感から
相手に心を開いてもらう為の距離感・リアクションの大きさ・仕草・声のトーンなどを意識せずともフレキシブルに選べる
そしてこの方なら話しても干渉し合う可能性が少ないイメージを抱けた
手元の基礎化粧品の量が尋常じゃないことに驚きと興味を持たれたようでドライヤーに負けないように美容談義を交わした

もう1人わたしに顔を向けてくれた貴重な同性・同年代の子がいた
病室の治安が如実に低下していき血圧も最低記録を叩き出した朝に
「タトゥーと髪色可愛いですね!ずっと気になってました!」
とにこやかに話しかけてもらえたにも関わらず
覇気のないお礼しか絞り出せなかったことをずっとぼんやり引きずっていた

少し話が飛ぶが、病室での会話の中で彼女はガムをとても好むと知り
差し入れにねじ込まれていた全く不要なボトルガムの存在を思い出し「あの時はごめんね〜やばかったの〜」なんて言いながら譲った
どうやら彼女好みの味だったらしく、とても喜ばれ、わたしも口角が上がった

話を戻すと
隣の病室からも異変を感じていたらしく
現地から逃げてきたわたしに何が起こっていたのか聞きたいとのことだった
ついでに今日までに受けてきた洗礼の数々を紹介し、病室を沸かせた。
ライブハウスのフロアのみならず
病室も沸かせちゃうアイドル、イイぜ____

この新しい住処となった病室は
個々の時間も尊重しつつ、きっかけがあればすっと手を差し伸べ合い、よりよい時間を目指そうとする空気感のある場所だった
東京の下町辺りの好きなところが詰まっているようだった
この空気感は何とも表し難くジェネリックはない

午後へとつづく

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