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サイゼと呼ばないで #文脈メシ妄想選手権

それは、ここがまだサイゼなんて気軽に呼ばれることのなかった時代のおはなし。

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今日は先輩たちの最後の試合。

緊迫した試合は最後までもつれたが、わずかな守備の綻びをついて相手方のエースにシュートを決められ、結局ロスタイム間際のその失点でうちの高校の敗退が決まった。

ポニーテールに派手なリボンがトレードマークのアイコはもう、ホイッスルが鳴る前から泣いている。

気合を入れてジャーボトルにたっぷり作っておいた、せっかくのアイスティーも全然減ってない。

あーあ、これ重くて持てないから、残りは捨てて帰らなくっちゃ…

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相手校のグラウンドを後にして、駅までの長い道のりをみんなで歩く。前を行くアイコの黄色いリボンが跳ねるように揺れる。なんとなくマネージャー陣は最後尾になるのが常だ。

先輩たちはみな一様に、疲れきった身体に大きなバッグの紐を食い込ませ、足を引きずるように歩いている。このまま暗いムードになるのかと思いきや、いつもの看板を見てキャプテンのヒロ先輩がみんなに声を掛けた。

「メシ、食って帰るやんな?」

も・ち・ろ・ん!!

アイコンタクトだけで、あっという間に店内へ吸い込まれていく先輩たち。

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「なに食う?俺ツナピザとミートスパね。」

「肉サラダとボンゴレ!」

「シーフードピザ食わへん?」「おー、俺食う食う!」

「え?ジュース頼む?お前も?」「コーラの人ー?」「私、レスカ飲みたいでーす!」「お前そこはクリソちゃうん?」


テーブルをくっつけて無理やり10人掛けにしてもらった席。

声がクロスしすぎて、誰が何を言ってるのか全然分からない。

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ぼぉっとしてたら頭の上から声が降ってきた。

「おまえはあれやろ?いつものエビのやつ。」

「えっ、あ、はい…エビのリゾットで。」

「カプリ風、な。」

にやっとしてヒロ先輩が私のオーダーもまとめて通してくれる。

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リゾットを食べ終わった頃、ヒロ先輩がテーブルの向こうから回ってきて、突然耳元で囁いた。

「なあ、これ食わへん?」

視線の先には、オレンジの皮に入った、溶けかけて半分くらい残ったシャーベットがあった。

「え?食べかけ?」


「今日せっかくようけアイスティー作ってくれてたのに、最後捨てさしてごめんな。あれ重かったやろ。」

「先輩、見てたんですか?」

「あたりまえやろ。俺キャプテンやぞ。」

「そうですけど…」


「ま、ええからはよ食え。おまえこれ好きやん。」

「え、知ってて頼んでくれたんですか?」

「せやで。あかんか?」


「キャプテンとか関係ない。ずっとおまえのこと見てただけや。だいたい、もうキャプテンちゃうしな。」


にやっとしてオレンジシャーベットの皿をこちらへ押しやると、ヒロ先輩は反対側のテーブルへ行ってしまった。

盛り上がる先輩たちの輪の中で、もうすっかりヨソノヒト、みたいな顔をしている。

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私は黙ってスプーンを口に運ぶ。

シャーベットは甘酸っぱくて、もうあんまり冷たくはなくて、オレンジの皮の外側に水滴がいっぱいついてキラキラ光っていた。


溶けかけのぐずぐずのこの食べ物は、まるで私みたいだ。

早く片付けてしまわなくっちゃ。

最後のひとさじを口に入れながら、そう強く思った。


明日からは、先輩たちがいない部室に行くんだな。


目の前の大きな窓からブラインド越しに見上げた空は、すっかり茜色に染まっていた。


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「文脈メシ」のご本家はこちら、坂るいすさん。

同じ文脈でご本家が書いてくださった、わたしの妄想文脈メシはこちらから。

今回のおはなし、ちょっと設定に影響受けました。

けど、実話もほぼこんな感じで。

高校時代、ホンマにこういうワイワイとしたシチュエーションやってん。るいすさん、なんでわかったんやろ?

ちなみにわたくし、マネージャーでもなんでもありまへん。そのへんは完全に妄想。7割がたフィクション。

でもメニューはガチやで。だって食いしん坊やもん。


そういえばこの文脈、既出でしたわ。

てか、サイゼネタ多いぞわたし。変なサイゼタグ、久々に使える。

チェーンとはいえまだ数も少なくて、あの頃神戸には数店舗しかなかったんちゃうかな?

部活の試合でこの駅で降りるたび、必ず立ち寄って。バイトで稼いだお小遣いをつぎ込んでたなぁ。

その頃からエンゲル係数の高いわたし。高校時代のキラキラした想い出。欠片は今も、隣に転がってます。

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そうそう、このタグを機に過去記事を読みあさり、どハマりしている坂るいすさんの作品たち。るいすさんと言えばなんとなくエッセイのイメージ強かったけど、小説がめっちゃええねんよ。

わたしの一番好きなるいすさんの作品はこれ。

この世界観、たまらん。『ちびまる子ちゃん』とかの、のほほんとしたファンタジーなんて吹き飛ばしてまえ。

ジジイ役、岸部一徳あたりで短編ドラマにならんかな。


こちらもおすすめ。

圭くん、よかったね。お母さん、幸せに暮らしててほしいなぁ。


あ、そやそや、こっちのくじ引きにも参加しーとこっと。

みんなの妄想メシが膨らみすぎて、タグで追うとめちゃ楽しいよ!


#文脈メシ妄想選手権


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タダノヒトミ
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