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わたしのこと

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わたし、を見せるのが一番苦手な私。少しずつ、ぽつぽつと、語っていこう。リハビリみたいな気持ちで。
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#母と娘

紅色の宝石 ~フジ子さんの話8~

ピンポーン。 扉を開けるといつもの宅配のお兄さんが笑顔で立っていた。 「こんにちは。ちょっと時間より早いんですけど…すいませんっ」 いえいえ。 微笑みながら手元の黒い箱に貼り付けられた送り状に視線を落とす。 山形からか…なんだろう。 ちょっと首をかしげながら、リビングのテーブルへ箱を乗せる。 「あっ、ママ!なに?お荷物?」 娘が目ざとく見つけて飛んできた。 「おお、なにこの黒い箱?あっ!さくらんぼの絵が描いてある!しかも黒い箱ってことは…こっ、高級なやつやん!!も

上京ノスタルジー

このところ少しずつ以前の“日常“を取り戻しつつある、街の景色。 5月も半ばを過ぎた頃、夫の住む街に用ができて、家族揃ってひっそりと移動してきた。 5年前までみんなで住んでいた、トウキョウに近いこの街に。 ーーーーー わたしがはじめてこの街に来て、ビックリしたこと。 水道水の塩素、すごい。 食器を洗って伏せておくためのカゴにびっしりと白い跡がつくのを見て、トウキョウってコワイ、と思った。 そんなわたしが上京してはじめて見つけた仕事は、家庭用ウォーターサーバーの営業

自由のしるし ~目の前のレールなんて軽々と飛び越えて、ゆけ~

帰宅してポストをのぞいたら、見覚えのある封筒が届いていた。 このクリックポスト便… Kojiさんからだ!! さっそく開けてみると、新作の『自由のしるし』が温かいメッセージカードと共に包まれていた。 私が愛してやまない、Kojiさんの心象風景ブックカバー。 私はすでに、ここのブックカバーを2つ持っている。 だけど。 『自由のしるし』の絵柄が発表された時、心が一気に持っていかれた。 これは、私の旗じるしだ。 なぜだかそう思った。 そして、Kojiさんのこのエッ

カレー、いちじく、ひつじぐも、な一日

最近、noteを書き出す時にまずTOP画像から決めることにしている。 この雲に出逢った時、これは絶対に撮りたい!と思った。かなり無理やりな状況で撮ったので、せっかくの空に無粋な街灯がぽつんと写り込んでしまっているが、それでもかなりお気に入りの一枚に仕上がった。 この日も、本当になんでもない一日。 とっておきのケーキ屋さんでひとりで旬のいちじくのデザートを食べ、それから少しだけ仕事をして、うちに帰ってカレーを作って、娘と一緒に仲良く食べた。 いや、嘘。 このカレー辛す

ミニマリスト

私は自分と外界との境界線を、輪郭ギリギリに引きたい人間だ。 深爪という概念に近いかもしれない。ちょっと痛いくらい、輪郭を自分の内面に食い込ませ気味に、ここまでが私だ!とずいぶん削ってきてしまったように思う。 だから、自力でできることとそうでないことを見極め、自分を過大にも過小にも評価しないつもりで生きている。他人にも多くは望まないし、個人の能力の範囲で個々にできることを、それぞれがそれぞれの場所でやれば良いと思っている。 そうすれば世の中はうまく回るような気がするし、自

母ちゃんのお仕事

今日は朝から仕事のはずなんだけど、どうにも気が乗らなくて家でダラダラしている。 実は娘も学校に行きたくないとぶつぶつ言っていたのだけれど、「休むのはいいけど、今日は仕事だからいないよー。お昼ご飯も用意してないから、自分でなにか作って食べなよ。」と言ったら「えー、ならめんどくさいから、給食あるしやっぱ学校行く!」と出かけていった。 ーーーーー 今朝、ある友人と、学校に行きたくないという子の話になって、思ったこと。 学校行かないで休んでいられるくらい、自分ちが居心地良かっ

しあわせの香り

近頃、娘がとてつもなくかわいい。 というだけの、おもしろくもなんともない、お話。 ーーーーー うちの娘はわりと早い段階からおしゃべりで、歩くより先にペラペラといろんなことをしゃべっていた。 私もそうだったらしいし、うちの母もほっといてもひとりでしゃべっているタイプだから、これはきっと母方の遺伝だろう。 身体が小柄で運動能力は同級生に比べると低いのに、口だけは立派に一人前で、しかも内弁慶だった娘は、幼い頃はとにかく可愛げがなかった。 少なくとも私にとっては。 イヤ

あの頃、戦場を共に走り抜けた友たちへ

2年ぶりの夏祭りだ。 辛うじて急行が停まることくらいが取り柄の私鉄の駅から、さらにバスで10分。古い集合住宅と新たに増えつつある高齢者向け住戸が立ち並ぶ、どこにでもあるような街並みの一画にある、だだっ広い公園。 特に待ち合わせをしたわけでもないのに、いつもの場所にシートを広げて、彼女たちはそこにいた。 「久しぶりー!元気だった?」 「まあ、とりあえず座りなよ!ビール?チューハイ?」 クーラーボックスからさっと取り出される冷えた缶ビールと、近くのスーパーで買ってきたパ

オバサンのイヤイヤ期

こどもというのは、とかく騒々しいものだ。 自分に娘ができてはじめて、こどもってなんてうるさくって激しくって、熱量の大きないきものなんだろうと、心底驚かされた。 感情の振り幅がとてつもなく広く、気分がジェットコースターのようにめまぐるしく変化する彼女は、毎日朝から晩まで全力で生ききって、死んだように眠りにつく。 なんてダイナミックな人生を生きているんだろう。 私はかつてこんなに一日を全力で生きたことがあるだろうか。 でもきっと、みんな自分のことは棚に上げて、すっかり大