短編小説 0018振込手数料の失敗 1014文字 1分半読

クレジットカード会社から口座未入金のお知らせメッセージが亮太の携帯に届いた。

「やべ、お金入って無かったのか」

今月は四九三〇円の引き落としで、別にお金がないわけではなく、その引き落とし口座にたまたまお金が不足していただけだった。別に設けてある家族のメインの口座の方にはちゃんとたくさんある。
引き落とし口座はいわゆるネット銀行のもの。家の近くにコンビニや銀行はいっぱいあるが、亮太のネット銀行と提携して手数料無料で振り込めるATMは家の近くにはない。
しかも今日は土曜日。手数料が割増のスペシャル週末だ。
ネットで調べると、家から七~八キロ行ったところのコンビニなら振込手数料無料のATMがある。

亮太は走ってそこまで行くことにした。
運動不足解消と手数料が無料だから一石二鳥だ。
久しぶりのランニングだ。いつもは長く走っても八キロ程度だが、今回は往復で十五キロ位。倍近いランニングになる。

亮太は着替え、ランニングシューズを履き、出発した。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

妻に送り出され気分よく走り出す。

正月明け、たらふくおいしいものを食べた体が汗とともに削られているような感覚が清々しい。久しぶりという事もあり、身体が重かったが、気分はとても良かった。

もう少しで目標のコンビニに到着するところで、足が震えてきた。
走れない程度ではないが、まあゆっくり歩けば大丈夫だろうと思い、走るのをやめ歩いた。
それからすぐにコンビニに到着した。
足を進めればゆっくりでも必ず目的地に到着するんだなと、亮太はちょっとした達成感で静かに自画自賛した。

コンビニで振り込みを済ませ、目的を達成する。
よし、帰るかと店を出ると、今度は疲労感が襲ってきた。

「あれ、おかしいな、足が更に重くなったぞ。少し体も冷えた」

急に前向きな気持ちが萎えてきた。
ついさっき感じた高揚感がしぼんでくる。
走らずとも、ゆっくり帰ればいいと思いつつもう歩きたくないとささやくもう一人の亮太がいる。

「電車で帰っちゃえよ」と。

電車で帰る?おいおい家まで一駅しか乗らないだろ。そんなに遠くないじゃないか。しかも電車賃は二百三十円だ。家の近くのコンビニで払う手数料より高い。それじゃあ本末転倒だ。いや別に電車で帰ったってかまわない。ここまで走ったから。気持ちよかったし。運動不足解消だし。
え?最初の目的は?って。

とか何とか脳内セルフ問答している間に亮太は電車に乗っていた。



おしまい。

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