セロハンテープ間接キスになると思ったでしょ

僕は、統合失調症と診断されて病院に強制入院させられていた時期があった。

することがないのでよく、病棟内を散歩していた。

すると、ある1人の女の子の患者が声をかけてきた。

その女の子は、見たところ僕と同じく二十代後半ぐらいで、沢尻エリカに似ている清楚系で、韓国風の美人だった。

なんて声をかけてくれたのか聞き取れなかった。

僕はイヤフォンをしていたせいで聞き取れなかったのだと思い、イヤフォンをはずし、すみません、なんですか?、と聞き返した。

彼女は、フゴフゴ、と言った。

僕は、なんですか?、と聞き返した。

彼女は、マスクを下に下ろし、口に張り付いていたセロハンテープを剥がし、よく散歩されてますね、と言った。

驚いた。

僕は、よく散歩はしてますけど、なんですかそれは、と、セロハンテープを指し、言った。

彼女は、ああこれですか、セロハンテープです、と言った。

僕は、それはわかってるよ、と言った。

彼女は、何かを貼り付けたりするのに使うんですよ、と言った。

僕は、セロハンテープの説明をしてくれてありがとう、なんでそんなものを口に貼ってるの?、と尋ねた。

彼女は、私、双極性障害で、躁状態の時、喋りすぎちゃうので、看護師さんからお口チャックのためにって渡されたんです、と言った。

僕は、そうなんですか、と言った。

彼女は、ダジャレですか?と言った。

僕は、躁状態なんですか?て尋ねたわけではないよ、と言った。

彼女は、そうなんですね、あ、いや、そうじゃなくて、そうなんですね、と言った。

そして、〇〇さんは貰ってないんですか?と言った。

僕は、もらってないよ、と言った。

彼女は、じゃあ、あげますよ、と言った。

彼女のセロハンテープには、彼女の唇の跡が残っていた。

エロいと思った。

僕は、いいよ、と言った。

彼女は、いえ、まだあるので、と言って服の端に貼られたセロハンテープを見せた。

30枚くらいのセロハンテープがビッシリ服の端に貼ってあった。

僕は、足りないんじゃない、と言った。

彼女は、変わった人ですね、と言った。

僕は、あなたもね、と言った。

彼女は、はい、と言って、セロハンテープを渡してきた。

僕はそれを受け取った。

彼女は、一緒に貼りましょ、と言った。

僕は躊躇した。

僕は、やっぱり僕はいいよ、と言った。

彼女は、〇〇さん、セロハンテープ間接キスになると思ったでしょ、と言った。

僕は、セロハンテープ間接キスになると思った、と言った。

彼女は、そんなに嫌なんですか?、と言った。

僕は、そんなことはないけど、と言った。

彼女は、じゃあ貼ってください、私も貼るので、と言った。

僕と彼女はセロハンテープを口に貼った。

フガフガと言い合った。

お互い笑ってしまい、セロハンテープが口から剥がれた。

僕は、剥がれたね、と言った。

彼女は、剥がれましたね、と言った。

彼女とはその後病院で話すことはあったが、連絡先を交換しなかったので、連絡手段はなく、今はどこで何をしているか知らない。

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