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第33期竜王戦第2局 封じ手開封

第33期 竜王戦 第2局2日目「大盤解説PREMIUM」参加の感想です。PREMIUMとしは――大盤解説だけでなく、「封じ手開封」の観戦がプランとされていました。

はじめにコロナ禍の中、大盤解説会を開催して頂いた万松寺の皆様、誠にありがとうございます。
(お弁当! おまんじゅう!! ありがとうございました!!)

早く名古屋についた!! 
ドキドキしながら、会場でそれらしき列に並んでいると――
「PREMIUMの方はおられますか?」
僧侶の方が声をかけて来てくださいました。連れられて、エレベーターに乗ったとき、衝撃の一言が聞こえました。

「今回――一般の方で封じ手開封に立ち会われるのは5名です」

は? 5名って、地球代表でしょ?!! 

その一言で、身が引きと締まったのは確かです。この目で全てを記憶するのだと意気込みました。

おそらく9:42~9:43頃。対局室に案内して頂きました。靴を脱いで次の間に並べられた座布団に座ります。
顔を上げると封じ手開封を観させて頂けるとは!!とはしゃいでいた気持ちが、吹っ飛びました。

タイトル戦の対局室の空気は、重く――静かなものでした。

立会人の青野九段、山崎八段、記録係。報道陣の発するシャッター音。
我々、地球代表は下座側――つまりは上座側に向かって座って、その時を待っていました。
間もなく、すっと手前の襖が開いたのです。

「おはようございます」(はっきりとした良い声)
(お、お、おはようございます――ですって?!)

声は羽生善治九段の第一声でした。
私の脳内はフリーズしました。
羽生善治九段のおはようございます――を聞かせて頂く一日は予想していなかったのです。
観ることばかり考えていて、生声の破壊力を想像しておりませんでした。

羽生善治九段が袴に手を入れて、すっと座られました。
背を向けられて、座布団に座られるお姿がスローモーションで視えました。
綺麗な所作。

次の瞬間、羽生善治九段が盤面を見られた瞬間、空気が変わりました。
対局者が場に入ると一気に空気が変わる――
観まくっていた番組で解説の方が言われていた。
それを――体感致しました。羽生善治九段の存在感は、とても大きいものでした。

そして、数分後、奥の襖から豊島将之竜王が入室されました。

ぺこりと――頭を下げられて。豊島将之竜王も小さく「おはようございます」と言われて座られました。
お二人の全ての所作が整っています。
盤の前に座られたお二人を観て、思います。


なんて美しい人たちなのだと――、私は息を呑みました。


そんな事を考えていた時、豊島将之竜王が駒箱を開かれたのです。

瞬間、重力が変わりました。

空気重いというか、鋭い。
ぐっと、ぐっと、息がつまる。
自分が息をしているのか分からない感覚に襲われました。
一定で駒音が聞こえます。その音の度に何かが増している。

対局室!! 重力5倍はあるぞ!!

気がつくと私は身体を動かせずにいました。
目の前を華麗なフットワークで写真を取られる報道陣の皆様が武闘家(後の桂馬と香車)に見えました。

次第に高まっていく重圧の中、駒が並べられ。初手から順に指されます。
ここで重力は10倍です。

すっと、視界から意識が飛びました。
耳から駒音だけが入ってきます。
その間、一分と少しほどでしょうか?
気がつくと音が止み、封じ手開封となりました。
しんとした空気の中――封じ手にはさみを入れられる青野九段か見えてきて、視界が戻ってきます。

ここからは全部観よう!!

必死で豊島将之竜王の表情を観ました。

ドキリとしました。
鋏が封じ手に入っていきます。
けれど、豊島将之竜王は封じ手ではなく、並べられた盤面にじっと集中されていたのです。
最大限まで集中力を高めていらっしゃったのだと思います。

そして、対局が始まりました。

――8六歩

数手、進んだところで青野九段が視線を報道陣と我々におくられました。

此処からは対局者時間です――そう、無言の視線。

大盤解説の会場に戻りました。
椅子に座って、身体を預けたとき、安堵と共に震えている身体を確認しました。


対局室では、震えることもできず――ただ固まっていたのです。

大きく息を吸いました。
身体に空気が入ってきます。重さが抜けるまで30分ほど掛かりました。

対局直前の鋭さ、重さ、そして――激しさ。
そして美しさを――勝手に感じた20分ほどの出来事。
これが素人だからなのか、素人でなかったとしてもなのかは――分かりません。とても貴重な体験でした。

勝手に感じた、重圧後は――最高に楽しい大盤解説が始まりました。

(続く――終局後の感想戦へ)

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