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しりとりしたら、さみしくなって泣いた話。

「 朝から、よー喋るな 」
電話越しに彼は、笑いながら言った。

ケンカしたり、ねてたり、大切な話をする時は 慎重に言葉を選ぶけれど…
楽しい時は多弁になる。
単純で分かりやすい性格だなと、つくづく自分でも思う。

ここ 2 ヶ月、休職中の私を相手に彼は、お仕事中もイヤフォンをして 1 日中通話を繋げてくれていた。

よく そんなに話すことがあるな。と、思われるだろうが…
他愛もない会話や、ゲーム。
一緒に ご飯を食べたり、一緒に寝たり、時には、喧嘩もしてきた。
そして、スマホ越しに聞く、お仕事の音や職場の人との会話には、なんだか格好良くてにんまりしてしまう。

「 しりとりしよ 」
午前中、彼の提案で唐突に始まった しりとり大会。
前回、末語が『 り 』か『 る 』になる言葉ばかりが回ってきて、惜しくも敗北を期した苦々しい思い出がある為、今度ばかりは負けられない!と私も意気込む。

「 しりとり 」
「 りんご 」…
お約束の幸先いいスタートを切り、途中までは よかった。
「 しり 」
「 スリ 」
彼のパスは、ドッジボールのようだ。
お仕事の片手間にも関わらず、次第に標準を定め、確実に仕留めようとしてくる。
一生懸命考えた『 り 』から始まる言葉も
「 りょうり 」
と、間髪入れず余裕たっぷりに返してきた。
「 り、り、り、り… 」
何度もラリーを重ねると、私はとうとう 言葉に詰まってしまう。
「 5、4、3… 」
始まったカウントに、焦りも相まって何も思いつかない。
頭の中では、少し前に言った『 リス 』が『 僕達がいるよ 』と、ダンスをしながら語りかけてきた。
そしてついには、見るに見兼ねた彼がくれた
「 ほら!牛乳とか飲んでしまった後のパックは、洗って、どうする? 」
という優しいヒントにも
「 捨てる! 」
等と、自信満々に言ってしまう始末。
( 正解は、リサイクル )

そんなやりとりを何度かしたのち
「 5、4、3、2、1…はいだめー 」
彼のカウントが、無慈悲むじひにも響く。

「 罰ゲームに、カラスのモノマネまで…
33、22… 」
「 待って!」
彼のいうカラスのモノマネとは、以前、友達に披露して
「 …やめといた方がいいよ 」
と苦笑いされてから、7 年近く封印してきたものだ。
「 はよ!33、22… 」
このカウントは、色々と私にはキツい。
「 待って!待って、じゃあちょっと練習させて 」
嫌な汗をかきつつミュートにして、こんな感じだったかと思い出しながら練習をする。
十八番おはこの、目玉の親父のモノマネなら まだいい。
だけどこれは…これだけは、一生封印しておくつもりだった。
その間も、彼は悪戯いたずらに何度もカウントをしてくる。
こういう時、「 えーやだぁ♡ 」と可愛く言っても、まるっきり通用しないことは私が一番知っていた。
もうこれは、死体蹴りだ。
えい!と覚悟を決めて
「 わかった…
これでフラれても、もういい 」
「 じゃあカラスまで、33、22、11 … 」
「 あ゛ぁ! 」
文字に起こすのは難しいが、恥ずかしさで声が震えながら、精一杯のカラスをした。
「 … 」
思っていた通りの、彼の反応。
いや、せめて笑ってくれ。
「 え、こんなんでしょ?カラス
あ゛ぁ! 」
自分で自分のフォローをしつつ、さっきより上手く出来てるはずのカラスを、またやる。
「 …うん
さっきのカラスのモノマネで、蛙化した 」
完膚かんぷ無きまでに叩きのめされた私の死体は、見事にちりへと化す。

苦笑いをするスマホの向こうで、同じく苦笑いしているであろう彼に向かって
「 じゃあ今度は、本気でやるね 」
と言う。
一度やったら、二度も三度も同じ。
「 …お前、すげーな 」
どう考えても褒め言葉ではない ' 凄い ' をもらった私は、最早もはや無敵だ。

明日からの会話では
「 目玉の親父、いる? 」
に加えて
「 カラス、いる? 」
も、言おうと思っている。
そしてきっと、「 あ、大丈夫 」とあしらわれるだろうし、どうせまた、話は半分しか聞いていない。
それでも、頗《すこぶ》る楽しいし…
今日は、楽しい反動で寂しくなって、午後から謎に泣いてしまった。
そんな、笑ったり‪泣いたり忙しい私に付き合わされても、何度、私が私を投げ出そうとしても、彼は少しも投げ出さずにいてくれる。

本当に、ありがとう。

いっぱい笑わせてくれるから、笑えるようになったし…
一緒に食べてくれるから、ご飯も食べれるし…
一緒に寝てくれるから、眠れてます。
『 6 時には起きなさい 』と言われたけど…
明日も、8 時までには起きるね。












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