氷河期世代のサラリーマンは親世代の半分しか稼げていない

今の年収1000万=20年前の年収650万

90年代から00年代に製作された映画漫画小説を是非再読して欲しい。そして『うだつの上がらないサラリーマン』の描写に注目して欲しい。

一例として挙げたいのが梁石日(ヤン・ソギル)の「Y氏の妄想録」だ。冒頭の1ページで、団塊世代の一般的なサラリーマンの経済力が示される。

そのスペックとは・・・
●中程度の大学卒、中程度の企業勤め、最終肩書きは課長。
●年収630万、妻は専業主婦、子供二人は高校卒業後進学。
●新興住宅地に新築一戸建て5000万を20年ローンで購入。
●勤続37年で退職金2000万円。

Y氏は有能でも幸福でも無い。稼ぎが少ないと妻に揶揄され子供たちにも尊敬されず、ローンの残りを払うために退職後も仕事を探さなければならない初老の男として描かれている。

上記のスペックを2021年の視点で見ると疑問が沢山湧いてくる。
「年収630万で子供二人を進学させられるの?」
「年収630万で5000万のローンを組めるの?」
「聞いたこともない大学と会社に属している人が年収630万もらえるの?」などなど。

それはこの20年で社会保険料が上がり、消費税が二倍になり、大学費用が高騰し、土地の価格が上がり、それなのに給与が全く上がっていないことが原因だ。

その結果、20年前の『うだつの上がらないサラリーマン』の経済力が高所得に見えるようになってしまった。
Y氏のような消費生活をしようとしたら、今だったら年収1000万程度必要ではないだろうか。

エリートが年収1000万しかもらえないという悪夢

難関大学を卒業して弁護士や会計士などの難関資格を取っても、親世代の中堅サラリーマンと同じ経済力しか持てない。

私の友人知人のエリート達はそれに気づいている。高収入だエリートだと言われるほどの生活水準を持てないことに自覚的だ。

だから子供を持たない。親が自分にしてくれたことを子供に出来ないことが分かっているからだ。
有名大学に行くために東京に下宿させたり、専門学校の費用を支払うことが難しいと分かっている。

難関大学や資格を得るために時間やお金を投資し、社会的にも責任のある仕事に従事する40代が、20年前の中堅サラリーマンと同じ経済力しか持てないことはおかしくないだろうか。

適正年収は今の1,5倍

大卒平均年収が500万だとすると、共働きでやっと世帯年収1000万ぐらいになる。
夫婦二人で働いて20年前の中堅サラリーマンの経済力しか持てていないということだ。氷河期世代は親世代の半分しか稼げていない。

適正な平均年収は、750万から800万くらいだと私はふんでいる。
というのも、20年前の年収1000万=今の年収1500万(最低でも)だと感じるからだ。

初任給も平均年収も高収入も、今設定されている額の1,5倍はないとおかしい。
初任給は30万、平均年収は年収750万、高収入とされるのは年収1000万ということだ。

氷河期世代が給与水準の低さに気づかない理由

一部の人を除き、氷河期世代の人は給与水準が低すぎることに気づいていない。

それは物心ついたことから低成長時代を生き、就職後も給与が全く上がらない時代を過ごしているからだ。前の世代よりも給与が上がるという実体験が皆無で、上がらないことが何の疑問も持たなくなってしまっている。

昨今給与水準が低すぎることを指摘しているのは、加谷珪一さんや大西つねきさんなど60年代生まれだ。彼らは景気のよい時代を、私たち氷河期世代よりは見聞きし体験している。

更に、彼らが考える適正年収・初任給は私が考えている額より高い。
マネタリーベースを考慮すると大卒初任給は40万が適正という意見もある。それは高すぎると思ってしまう私は、やはり不景気しか知らない氷河期世代だ。経済が成長すると何が起きるのかというイメージが持てないのだ。

適正な賃金をもらおう、または賃金に見合った働きをしよう

しつこいが、給与水準が低すぎることにもっと自覚的にならないと危険だ。

そのうち見当違いの批判や政策推しに繋がって行くだろう。「低所得者や専業主婦がずるい」という非生産的なただの愚痴が幅をきかせている。

低所得者の子ども手当の廃止、生活保護の廃止や減額、専業主婦優遇廃止。それを全て実現しても現役世代の暮らしの向上には繋がらない。一瞬気が紛れるだけで、しばらくするとしれっと社保や消費税が上がり、結果的にみんなで生活レベルが下がるだけだ。

サラリーマンも賃金交渉出来ないのだろうか。賃金の水準について同僚と意見を交わせないのだろうか。
もしそれが難しいなら、賃金に見合った働きはどれくらいか考えるだけでも無駄ではない。

適正な賃金をもらっているかどうか思考するのは本人だけのためではない。家族はもちろん同僚や後輩にも影響する。安い賃金で働いてしまう人が多ければ、賃金は上がりにくい。

そもそも大企業の内部留保は過去最大なのだから、給与を上げられないということ自体がおかしい。

参考文献:

『Y氏の妄想録』 梁石日 幻冬舎
『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』
                  加谷 珪一 幻冬舎新書



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