死想う遺物

外は雨だ。俺は車の中で古代石板じみた情報端末『岩盤』の僅かな光を浴び、57年2か月ぶりに喜びの感情を味わっていた。車の外にはうつ伏せの人体。こいつは軽々しい態度で自分を殺せ、と持ち掛けてきたのだ。電子市民規則の外にあり、絶滅推奨物である旧世代物理殺人ドロイドである俺はこれまでも同様のくだらない依頼を受け、金を得ていた。電子世界に籠り、代替可能な肉体を戯れに損壊するのが輝かしき新世代の人類というわけだ。


だが奴は「死んだ」。端末が映すのは奴のデータがバックアップ含め検索不可能であること、すなわち電子的死を告げるノーティス。久方ぶりの死亡確認は心地よいものだった。懐にしまった銃を徐に取り出し、眺める。側面に奥ゆかしく「幽霊殺者」と刻まれたそれはゆったりしたリズムで青白く脈打っていた。


この街で、俺ほど他人の命を気に掛けるやつはいない。だから思い出させてやるのさ。それは俺とこの銃の送り主の想いだ。

【続く】

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