代償

ビルが崩れていく。崩れた跡を見てしまうと、そこに何があったかわからなくなるな、と思う。



私には背景がない。

言い方が悪いかな。人としてのバックグラウンド?そういうやつがない。
なにせ、記憶がないから。

私がいなくなったら、その跡?を見て誰かが私のことを思い出すんだろうか。このビルと同じで、すぐに忘れられてしまうんだろうか。


私は道の真ん中に立っている。両脇を顔を青くした人々が通っていく。たまに肩がぶつかるが気にしない。

叫び声、どよめき、声にならない声。私一人、静かだ。この中に参加する資格をどこかに落としたらしい。

目の前には巨大な影。ビルを次々壊していく。記憶を。




騒ぎが去った。ここには私だけだ。

深呼吸を2回。いつものおまじない。左手をまっすぐ天へと伸ばす。袖がずれて、おもちゃみたいなブレスレットが姿を見せた。

「いこう」

守るんだ。私が。

輝きと共に私は姿を変えた。今の私には4車線は少し狭いが、仕方ないな。

【続く】

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