見出し画像

理念をお題目にしない_『JALの心づかい』(上阪徹 著、河出書房新社)

だいたい、どの会社にもあるのではないだろうか。

「基本理念」のことである。以前勤めていた会社にもあった。在職中に一度、作り変えられたこともあった。

ところが、この基本理念を社内に浸透させるのは難しい。それをつねに頭に置いて仕事をしているか? 実践できているか? と問われると、自分は「はい」とは言えない社員だった。会社が発表する年度計画や部署ごとの目標も、基本理念を念頭に置いて考えられたものとはとうてい思えなかった。こうして、せっかくの理念はおのずと「お題目化」していくのだ。

『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』(上阪徹 著、河出書房新社)は、この基本理念の浸透、社員の現場での行動への落とし込みをどのように行ない、実際にどう社員が行動しているかを紹介する事例集と言える。

JALのグランドスタッフの「感じ良さ」の秘密を解き明かすものともなっている。知らなかったが、JALはさまざまな顧客満足度調査で1位を獲得していたのだった。

JALは2010年に経営破綻し、京セラ創業者の稲盛和夫氏が会長に就任した。それからというもの、京セラフィロソフィを基にした社員の行動哲学「JALフィロソフィ」を策定し、その浸透を通して全社員の意識改革に取り組んできたという。フィロソフィは作っただけでは浸透しない。その浸透のための工夫が「徹底」しているのが、JALが他の会社と違うところだ。

具体的にはこんなことをしているらしい。

・各職場で毎日のようにJALフィロソフィの一項目を「今日のJALフィロソフィ」に設定し、「こういった行動をしていこうと思う」と発表する。

・グループの全社員3万3000人が年3回、JALフィロソフィに関する講座を受講する。毎回テーマを変え、チームで2時間かけて討議をする。現場での取り組み発表、稲盛氏の講演、植木義晴社長のコメント、ディスカッション、ワークシートへの記入など。

・部門ごとのJALフィロソフィに関する勉強会。

・空港業務に携わるスタッフによるJALフィロソフィに即した行動を発表する年1回の「発表会」。

これらの取り組みの結果、グランドスタッフがどのような行動を取っているか、それがどのように「感じ良さ1位」につながっているかがわかる内容だった。

基本理念は作って終わりではない。浸透させ、それが行動に反映されるよう絶えず工夫を行わなければならない。
私が今取り組んでいる仕事も同じだ。原稿には求められる一定のレベルがあるが、その達成度は目の前の素材の内容や自分の体調によってもいとも簡単に左右されてしまう。ちょっと気を抜くとすぐに質が落ちてしまう。

そうならないように、目の前に気をつける点を記した書類を置き、絶えず見ながら作業を進めている。ひととおり終わったら、再度それを見つつ、チェックする。こうした努力が大事なのだと思っている。

悲しいけれど私たちは、流されやすく、忘れやすい生き物である。そのことに自覚的でありたいと思わせてくれる本だった。