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お粥やの物語 「謙太の出会い」

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理不尽な理由で会社をクビになった謙太と、お粥やとの出会いを描いたお話です。
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#お粥や

お粥やの物語 第1章2-2 「常連客の神山さんは一見おだやかそうです」

カラカラと乾いた音を響かせながら引戸が開き、パナマ帽を被った初老の男が入って来た。 「今…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章2-3 「常連客の神河さんは見るからに短気です」

入口の引戸が盛大な音を響かせて開いた。 その音は、商店街の抽選会で回るガラガラのように威…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語番外編 第1章2-4 謙太の呟きと、神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「人生には二通りの生き方しかない。 ひとつは、奇跡などなにも起こらないと思…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章3-1 「住み慣れた社宅は、別れを告げた彼女のように冷たくて」

謙太の頭の中で、途切れがちな映像が現われては消えていく。 黒い海の底から出現したような記…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章3-2 「祖父の想い出は消えることなく」

僕は梅雨明けの夜空を仰ぎ見て、自分に言い聞かせるように小さく呟いた。 「逆境のときこそ前…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章3-3 「笑うと、幸せになれますか」

『私の靴が見つからないの……』 さっきと同じ女の人の声だ。 声に滲んでいる悲しさは濃くな…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語番外編 第1章3-4 謙太の呟きと、神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」 アラン「幸福論」より 【謙太の呟き】 笑うから幸福になり、そして、また笑い、さらに幸福になれるのなら、坂道を転がり落ちる雪ダルマのように、幸福は大きくなって……。 考えただけでワクワクします。 でも、笑うのは簡単そうだけど、いざ、やってみると難しい。 頬は石のように硬く、口角の端は糊付けされたように動きません。 笑えない僕は、幸せを手にできないのでしょうか。 【神さんたちの内緒話】 「笑うのは簡単だろう

お粥やの物語 第1章4-1 「殺意を帯びた目つきで僕を睨んでいる美少女は、幻覚ですか…

「起きなさいよ」 細いながらも鋭い女の声に、僕は瞼を持ち上げた。 ランプの灯りが左右に揺れ…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章4-2 「初夏なのに、夜の雨はとても冷たくて」

頬にポツンと、冷たいものが当たった。 瞼を開けると、薄汚れた少女の姿は消えていた。 夜の…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語番外編 第1章4-3 謙太の呟きと神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「恐れは逃げると倍になるが、立ち向かえば半分になる」 ウィンストン・チャ…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章5-1 「信じるモノが見つからない僕は、強くなれませんか」

『私の靴を探してよ……』 雨の間をすり抜けるようにして聞こえてきた少女の声に、僕の心臓は…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第1章5-2 「百円のお賽銭で、思いつく限りの願い事をした僕は罰当たり…

確か、鳥居の前で、一礼するんだった。 一年に一度では、記憶は曖昧だ。 神妙に頭を下げると、…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語番外編 第1章5-3 謙太の呟きと神様たちの内緒話

【賢者の言葉】 「まだ信じるべきものを知らないときには、感じることと欲するものを知ろうと…

ユカ夫
11か月前
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お粥やの物語 第2章1-1 「夕飯が一杯のお粥では、物足りない気がします」

僕は歩を進め、店の前に立った。 三メートルほどの間口に、四枚のガラス戸が行儀よく並んでいる。 よく磨かれたガラスは乳白色で、店内の様子は窺えない。雨で湿った暖簾が、重そうに夜風に揺れていた。 お粥か……。 最後にお粥を食べたのは、小学四年生の冬、風邪で寝込んだときだ。母が用意した真っ白なお粥の上で、祖母が作った大きな梅干しが一つ、ゴロンと転がっていた。 お粥は嫌いではない……。 でも、お粥は体調が優れないときに食べるもので、元気とは言わないまでも、大きなリュックを背負うだ