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おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 22 相棒

ラオス バンビエン2日目
2023.0621 Wed

かの天才アインシュタインが唱えた説、『相対性理論』。
バリバリの文系、というよりも理系がてんでダメだったわたしにはWikipediaを熟読しても内容は理解できないのですが、『相対性』については、経験則的に理解しています。
よく言われる例え「熱したストーブに手をついた1分間は1時間に感じられ、好きな女性との1時間は1分間に感じられる」はまったくその通りで、アインシュタインは文学的な才能もあったんじゃないか、なんて想像も膨らみますね。

わたしが提唱する『相対性』の例えは、ビールです。
みなさんは最高に旨いビールを飲みたくないですか? おそらく下戸と医者に止められている人以外は、「飲みたいに決まってる!」と思うことでしょう。
最高に旨いビール、それは北海道のサッポロビール工場で飲むビールでも、クラフトビール樽からマイスターが注ぐ至高の1杯でもありません。
最高のビール、それは真夏の鳶仕事終わりのハイエース内で飲む500ml缶、これに限ります。若かりし当時、ほとんど下戸だったわたしですが、このビールだけはサイコーに旨かった記憶が強烈にあります。
もちろん、それは人によって違うでしょう。3000m級の登山後に登山靴の靴紐を緩めて飲むビール、年単位のプロジェクトが完成した日の夜に飲むビール、久しぶりに集まったサッカー仲間との試合後の打ち上げで飲むビール。ラオスのビエンチャンにたまたま居合わせた日本人同士で飲むビールも、サイコーに旨いビールに加えても差し支えないでしょうね。

ところで、ラオスはバンビエンに来て二日目の早朝5時40分、わたしはいきなり面食らってしまいました。バンビエンの明け行く空を見上げながら跨った自転車、そのリアタイヤがぺしゃんこだったのです。
「おいおいおい…。おいおいマジかよ…」
早朝からのライドオンに合わせて昨夕から借りていた自転車。余計に20,000kip(約150円)掛けて選んだマウンテンバイクが…。昨夜までは大丈夫だったので、おそらくは極小のピンホールが空いたスローパンクチャーでしょうが、いずれにしても修理は必須。
午前8時か9時まで待ってそこから修理して…、という選択肢は考えられません。
googleマップを再確認し、わたしは迷わず歩き始めました。

いかにも栄養豊富な赤土と晴れ渡った空の青とのコントラストが美しい。
ヴァンビエンの魅力は、町中よりもむしろこういう田舎道にあるとわたしは考えます。

こんなことを言っては元も子もないと言いますか、かなりアレな感じのアレなんですけども…。わたしはブルーラグーンもタム・プーカム洞窟も、実はそんなに期待していなかったのです。たまたまバンビエンから来たばかりのバックパッカーに紹介してもらい、やっぱりそこは乗っかっときたいので自転車を借りてサイクリングがてら目指したのですが、景観とかアクティビティーとして自体にそこまでの“惹き”はわたしにとってありませんでした。
昨日からビシバシ感じている“ヨーロッパ系の方々に向けたリゾート”感は、おそらくなんらかの影響をわたしに与えているでしょう(というか、そもそもヨーロッパ系とか関係なくリゾートに興味がない)し、そんなリゾートで苦手な薄暗いドミトリーを選んでしまった自分の迂闊さもその影響に拍車を掛けていました。
「イケるとこまで行って、んで暑くなったら帰ってこよ」
それくらいの軽い気持ちで歩き始めました。ドミトリーのチェックアウトが12時半、新しいホテルのチェックインが14時。それまで時間を潰す必要がわたしにはあったのです。

特徴的な形状の山々。なんだか中国の水墨画っぽくもあります。

歩き始めること1時間、googleマップで確認すると予想以上に順調に進んでいることがわかりました。明け方まで降っていたスコールの影響でまだ気温が低めなこと、クルマやバイクの交通量が少なく歩きやすいこと、景色がとても良いこと。理由はいくつかありますが、前回の100kmサイクリングによって“諦めずに移動し続けること”に耐性が付いているのも大きな要因だと思います。
「行く気はそんなになかったけど、イケそうやから行っとくかな」
くらいの気持ちで歩き続けることさらに1時間、前方から走り寄る、小さく茶色い影…。
犬です。朝の犬。早朝や夜など、涼しい時間帯の犬は行動が活発になり、注意が必要です。タイに比べてラオスの犬は温和で(タイの犬はマジでヤバいらしい)おとなしいのですが、それでも見た感じ辺りに商店は見当たりませんから(商店の犬は人慣れしている)、ひとまず安全策“視界の端にその姿を捉えつつ視線を合わさず無視して歩き去る”という作戦をとりました。
まっすぐ前方を見据え歩き去ろうとするわたし。その脚に向かって茶色い犬が反応しました。しかしその反応の仕方がいかにも友好的だったので視線を合わすと、ドギー(仮名)はわたしの目線に応え、そして先立って歩き始めました。

びっくりするくらい頭の良いドギー。
わたしをマックスまで楽しませつつ、道中を迷うことなく安全に案内してくれました。


その歩き方が、いかにも「おい行こうぜ!」って感じなのです。
ちょっと先に行って草むらをチェックしたり座り込んで首周りを掻いたりもしていますが、どう考えてもわたしとある種の歩調を合わせ、わたしと一緒に歩いているのです。
試しに、先に行っているドギーに手を叩いて呼び寄せたりもしました。と、これが戻ってきてくれるのです。もういっちょ試しに、ドギーに声を掛けながら走り抜くと、負けじとドギーも走り出すのです。そしてわたしが走るのをやめると、ドギーも再び歩き始めるのです。
わたしはすっかり嬉しくなってしまいました。
途中のレストランから走り出てきた白い犬とドギーが絡んでいるときも、わたしの「もう行くぞ」の声にこっちに来てくれましたし、ブルーラグーンの入り口で入場料を払う頃にはもうすっかりわたしたちは旅の相棒になっていました。
そしてさらにドギーについて行くと、そこにはあのブルーラグーンが! ちょっと橋を渡るのが苦手なそぶりを見せるドギーに、わたしは人間様の貫録を見せつつ堂々と通過。すぐにドギーが追い抜き、そして次に出てきたのがタム・プーカム洞窟でした。

ヴァンビエンと言えばブルーラグーン。それくらい有名な泉です。


ライトを借りて山道への扉を開けると、ドギーは野生の瞬発力と俊敏性を開放して岩だらけの山道を駆け上り、一気に見えなくなってしまいました。サンダルのマジックテープを締め直し大汗をかきながらも慎重に登っていくと、少し開けた場所に「待ちくたびれちまったぜ」と言わんばかりのドギーが。はたしてその左手には、洞窟の入り口があるのでした。
「ここまで来てくれたんだから、ドギーと一緒に洞窟に入りたい」
わたしは強烈にそう願いました。開園すぐで観光客の姿はまったくなかったし、運動神経抜群のドギーが怪我をするわけがない。でも、さすがに犬であるドギーはほとんど手つかずの洞窟に入る理由がないし、それを求めるのは酷な話です。
諦めてライトをオンにし、本当に“単なる横穴”といった感じの入り口をビビりながら通過し、わたしは洞窟の中へ一歩踏み出しました。そして2歩3歩…。と、わたしの足許を素早く通り過ぎる茶色い影。ドギーです。

ライトウエイトボディに4輪駆動、そして低重心のドギーは悪路に滅法強いです。
もちろんライトなんて必要ないですし、水溜まりなんかも平気でバシャバシャ歩いていました。


昨夜の雨で路面はウエット、洞窟上部からも水滴がガンガン落ちてきていますが、ドギーにとっては問題なし。わたしは転ばないように慎重に歩を進めながらも、ドギーと一緒に洞窟に入れたことが本当に嬉しくて、小躍りしたい気持ちでした。

足許の整備はまったく無く、若干のスリルすら味わえるタム・プーカム洞窟。
ドギーが案内してくれたから、本当に楽しく過ごせました。


帰りの山道なんかも、「ゆっくりでええから、コケんなよ」とわたしを気遣うドギーに、額の汗をビシャッと掛けて人間様の威信を示し、代わりにドギーはわたしの休憩中も近くの猫を追い回す余裕を見せつけてきました。

これ、ホントにわたしを気遣ってくれてるんだよね。おっさんはマジで嬉しい。

そして帰り道。
白い犬が走り出てきたレストランに、ドギーは慣れた感じで入っていきました。ちょうど休憩がしたかったわたしも、後を追ってレストランに入りました。
やたらと寛いだ感じで寝そべるドギーを見て、スタッフの方に話しかけました。
「Is this dog your’s?」
一瞬の怪訝な表情の後、poor Englishを理解してくれたのでしょう、
「Ya! He’s my dog.」
とダニエル・ラドクリフ似の彼は笑顔を見せてくれました。
聞くところによると、彼はフランス人で、シェフはイタリア人。レストランをやりながら英語を教えるボランティアも行っているそうです。

レストランのナイスガイたち。SAE LAO Projectという地域に根差した
ボランティア活動も行っており、いわゆるマジモンの良い人たちです。
詳しくはこちら saelaoproject.com

普段はお昼からの営業で、「I want something cold to drink.」という教科書通りの英語で訴えるわたしに、「ビールしかないんだよね…」と困るラドクリフ君。とにかくドギーに謝意を伝えたかったわたしは、帰り道がまるまる残っているにもかかわらず、ビールを選択することにしました。ビールをチビチビ飲んでいると、ドギーよりもむしろホワイティ(仮名)やパピー(仮名)の2匹のほうが積極的にわたしをかまってくれました。

3匹の賢くてかわいい犬と遊べるこのレストラン。
ブルーラグーンに行ったら、帰りにぜひとも寄りたいサイコーの場所です。

楽しい時間はあっという間、それこそ1分間にも満たないくらいに瞬時に過ぎ…。スタッフ全員に礼を言い握手を交わし、わたしはレストランを後にしました。そして20mも歩いたでしょうか。わたしに走り寄る茶色い影、もちろんドギーです。
わたしは地面に座りこみ、ドギーを撫で続けました。ドギーも目を閉じ、気持ちよさそうにしています。本音を言うなら、あと3年くらい、こうしてドギーを撫でていたかった。でも、ドギーにも都合というものがあります。わたしは立ち上がりました。ドギーの背中をポンポンと叩くと、ドギーも立ち上がりました。お別れです。ドギーはレストランに戻っていきました。

帰り道、アルコールに弱いわたしの脚は、行きの7割程度の速度でしか進むことができませんでした。しかしわたしはなんらかのナニかを極めたかのごとく幸福感に包まれ、道行く人々に挨拶し、座り込んで牛を観察し、豊かな大地に感謝し、子供たちの笑い声に頬を緩ませたのでした。

なんか、『相対性理論』とうまく絡ませとようと思っていたのですが、うまく絡めませんでしたね。
言いたいのは、ドギーのおかげでわたしはサイコーの時間を過ごせたこと。
同じ道を行くのなら、でもつまるところ同じ道なんてない。
だったら、笛を吹いて歌いながら行ったほうが良い。そういうことです。

帰り道、サイコーにオープンマインドだったわたしは、暑くて長い道中をもフルで楽しめました。


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