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#クリスマス小説
le conte 聖夜の密室劇 第一夜「ふつうな二人」
「所無駅まで」
白柳は素っ気ない口調で運転手に告げた。
はい、と短く返事をして、運転手はゆっくりタクシーを走らせた。トヨタのクラウンは滑らかな走りで雪の夜道を進む。
車中には、雪よりも冷たい空気が流れていた。冷たいばかりでなく、白柳がときどき吐き出す溜息が、重みをプラスする。
「何回溜息ついてるのよ」
「十三回」
「……数えてたの?」
「自分の出した溜息だからね。数えるよね、ふつう」
出た。
le conte 聖夜の密室劇 第二夜「サンタはここに」
その夜、俺はわけあってサンタクロースの恰好で夜道を歩いていた。12月24日。少しも違和感のない恰好ではある。違和感がなさすぎて、少しばかり頭がどうかなりそうなくらいに。もちろん、趣味でこんなコスチュームをしているわけじゃない。甥っ子のぎりぎり起きている時間に行って、サンタクロースを演じる約束をしていたからだった。
「いやあ困っちゃってさぁ」
先週、偶然駅前で会った兄はそう言って頭を掻いたものだ
le conte 聖夜の密室劇 第三夜「量子さんをください」
「しょうじき、最悪じゃよ」
目の前にいる白髭の男はそう言いながらお茶を啜った。量子はこの男を「パパ」と紹介したが、「おじいちゃん」と言ったほうがいい年齢に見える。ボクはついさっき量子の家を訪ね、こうして六畳の古びた和室に通されたのだった。
「何が最悪なんですか?」
ボクは正座している足がはやくも痺れてきそうだなぁと思いつつ尋ねた。とぼけるんじゃないよ、と男はぼやくように言った。
「クリスマスの
le conte 聖夜の密室劇 第四夜「頭骨あります」
その古道具店〈唐草堂〉は、地下鉄の階段を上がって地上に出てすぐのところにあった。十二月ともなると、店内には円筒型のガスストーブが置かれ、いつも店主がそこに手をかざしていた。店主は齢90近くに見え、禿げ上がった頭髪に丸眼鏡をかけ、立派な白髭を蓄えていた。私はその店にずっと興味をもっていたものの、入社して以来一度たりともその店の前で足を止めることはなかった。古道具屋と言ったって、どうせ高価なものばか
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