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異世界サイコロ旅行 第一投

始まりのサイコロ

 お昼時のピザ屋は死ぬほど忙しい。ピザなのか、ピッツァなのかどっちが正解だっけ。

 え? 何? そんなことはどーでもいい?

 えーっと、私はえくすこたん! サイコロ振ったら6が出て……、あ! サイコロの旅してたの。面白半分にスケッチブックに異世界って書いたんだ! そしたら……、

「えくすこちゃん! こっちハンバーグピザ2つお願い!」

「かしこまりましたぁ! オーダー入りまーす。ハンバーグピザ ツー!」

 う~ん。意味不明だよね……、ちょっとやり直し! コホン。

 私はエクシア・スコールズ。

 16歳の女の子。Fantasficってサイトにイラストをアップして仮想通貨をもらって生きてる、いわゆる仮想通貨女子なのだ。サイトのみんなからは、えくすこたんって呼ばれてるよ。よろしくね。

 一応、高校生だけど学校より面白いことがある気がして迷走中。

 絵が得意だからいろんな場所の風景をスケッチブックに描き貯めてるの。

 そう、いろんなところの。
 
 というのは現実世界での話。今は異世界ピザ屋でウェイトレス見習いしてるよ。なぜかこの異世界ピザ屋があるのよね。

 で、なんでそんなことになってるのかって?

 それはね、つい魔が刺したというかなんというか。

 スケッチポイントの行き先を決めるのはサイコロ。

 候補地を6つスケッチブックに書いてサイコロを振るの。それで出た目に従って出発ってわけ。

 私、6に「異世界」って書いたんだ…。これ確実にフラグ立ったよね? ね? エヘヘッ☆

 むしゃくしゃしてやった。今は反省してる。本当に魔法陣が足元から出てくるなんて思わないじゃない。もちろんこの旅は日帰りじゃないといけないから、はかた号には乗りたくねぇなぐらいしか考えてなかったの。

 しかもその魔法陣、辺り一面が眩しいくらいに明るくなる豪華なエフェクトまで付いててね、明日の新聞一面に『光とともに消えた少女! 謎の魔法陣現る!』って載るのは間違いないわ。これで私も有名人よ!いやっふぅ! 現実世界でだけど。
 その時スケッチブックに書いた『異世界』に(アルカディア)てルビが入った。私がいるところの大陸はアルカディアって言うらしい。何気に芸が細かいよね。

「あ、お会計ですね! はーい、現金ですか? EXC(エクスコ)払いですか?」

 そうそうこの異世界、仮想通貨まであるのよ! しかも! 『EXC』

 でも、現実世界での残高は引き継いでなかったよ。マネーチートキタ! って思ったのに、しょぼん……。

 家を出る前にニュースで、取引所がナナシにハッキングされたって聞いたからちょっと心配。私、9割方はウォレットでガチホなんだけど、旅費とか画材の為に少し換金する必要があったのよね。

 あ、ナナシってハッキング集団のこと。最近、仮想通貨取引所を荒らし回ってるんだ。

「EXC払ですねー。確かに6400EXC頂戴しました。ありがとうございます! また来てくださいねっ☆」

 営業スマイル、ゼロEXC。

 現実世界にいた頃は、働いたら負けだと思ってた。こっちにきてから、私、少しだけ変わった気がする。すこぉ~~しだけね。

 まぁ、仮想通貨のことはおいおい分かると思うよ。

 それでね、光に包まれて意識が飛びそうな中、必死で首からぶら下げたペンダント時計を握ってた。

 これはトレーダーだったお父さんの形見。母さんが言うにはとっても精確なんだって。そういえば時刻合わせをしたことないや。ルーズなあなたには猫に小判ねって言われたっけ。豚に真珠って言われなくてよかった。まだ猫ちゃんのほうがいいもんねー。

 人って極限になるとくだらないこと思い出したり考えたりするよね。

 お母さんが作ってくれたお弁当、かたよっちゃったかなって思った。ほうれん草のごま和えと唐揚げはくっついて欲しくないとか、リュックに入れたおやつ、異世界に行くんじゃ300円で足りなかったな、バナナも入れておけば良かったとか。

 ホントどうでもええわっ、と思っていた時期もありました。 

 そしてギリギリ目を開けたら少年が見えたの。

 棒付きキャンディーを舐めながら、悪戯好きで無邪気そうに笑ってた。


@えくすこプロジェクト
挿絵はハンバーグ師匠の作画です。


えくすこプロジェクト公式キャラクターえくすこたんの二次小説、『異世界サイコロ旅行』をよろしくやで!