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図書館員、その本いつまでもあると思うなと語る 真夏のゲルググ編

 こんな本自分しか借りないだろうと思ったのに! と、予想がハズれて憤るお客さんがちょいちょいいる。

 真夏の炎天下の中顔を真っ赤にしてシャアゲルググのように目尻を吊り上げ憤慨するお客さんが手汗でくしゃくしゃのレシートを見せてきたことがあった。見慣れてる書籍案内レシートなのに何か違う……なるほど、よく見れば本館で出されたものだ。

 話を聞けば、新聞の書評を見て興味を持った本を探そうといつも使っている本館で検索したところ、うちの館にのみ在庫資料があると判明したそうな。そのまま暑い中自転車をこいでえっちらおっちらやってきて、所定の位置を見たら無いではないかと鼻息でビームナギナタが回転させられそうなほどゲルググヌヌ……となっている。

 おかしいですねとデータを調べてみると……本当にタッチの差で借りられていた。このシャアゲルググなお客さんが書架へと続く階段を登っているぐらいのタイミングで、貸出手続きを済ませた連邦の白い悪魔が……じゃなくて、お客さんがいた。職員用の端末からは何日何時何分に本が貸出された、返されたがわかるのた。

いやがらせか!? 俺はこんな暑い中自転車をだなっ!! こんな本を読むのは俺くらいなのにっ!!」

 こんな本を読むのは俺くらいとは、図書館員をやっているとしばしば耳にするセリフである。こんなマニアックな、需要の低い、専門的な図書は誰も読むまい、だからもっと長く貸し出せとか、督促なんかしてくるなと……王様の剣を引き抜いたのは俺だと言わんばかりである。アルトリアにエクスカリバーされてしまえ。

 けれどもその「俺しか読まない本」に限って、割と貸し出される本だったりするから可笑しい。

 シャアゲルググ氏のお探しだった本もそうだった。新聞の書評でバッチリ紹介されていた。新聞の購読者数は下り坂らしいけれど、それでも新聞愛読者も書評コーナーを楽しみにしているお客さんも、結構な数がいる。ましてや書評を書いてる人は書くのも選ぶのもプロであり、識者が関心を持った本には無数の読者が興味を持っている人がいると思った方が賢明だろう。そんな本がいつまでも書棚に置いてあるとは限らないのだ。

 そして間の悪い人というのもいるもので、このシャアゲルググなお客さんを含めてかつて3例、本当にタッチの差で目当ての本を貸し出されてしまった、あるいは予約されてしまったというケースがあった。ひどい時は、この本ないよってレシートを持ってきたお客さんの真横で当の本が貸し出されたこともある。悔やんでも悔みきれないらしく、なんとか交渉してくれよ、懐かしのクイズ番組『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』の《横取り40萬》の如く、こっちに回してくれと頼まれることもあった。そんな無茶な。他の人が手に持っている本についてはどうにもしてあげられないのだ。ララア、彼らを導いてくれ。

 ではシャアゲルググ氏はどうすれば良かったのか?
 お住まいの自治体にもよるので詳細はそれぞれで確認してみて欲しいのだけれど、同じ市区町村の他の館に在庫がある本をどうしても今日中に確実に手にしたいというときは、自転車こいで赤い彗星になる前にカウンターで取り置きをしたいと伝えてください。そうすると、まず職員がその本が現在確実に向こうの館にあるのか電話連絡をして確かめます。そして確保できると折り返し電話がくるので、それから無理のないスピードでその図書館を訪ねてください。途中で、本をゲットしたらここで涼もうという喫茶店の目星をつけても良いでしょう。着いたらカウンターで取り置きを頼んであると伝えると、めでたくゲットです。ただし、これは《予約》ではなく《取り置き》なので、確保しておけるのは依頼した日の翌日まで(自治体にもよる)なのでちゃんと取りに来てくだされ。

 

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